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ーきゅうかくうしお的醸すin城崎ー 滞在日記【2】
きゅうかくうしお・石橋穂乃香
2022.8.5
パフォーマンスユニット「きゅうかくうしお」のメンバー9名が、2022年1月23日~2月5日城崎国際アートセンターに滞在し、リサーチと新作のクリエーションを行ないました。作品のテーマは「醸す」。
自由につくることに集団として向き合い、各メンバーの視点で作品化された「醸す」が空間内で交わる新作「KU的醸すin城崎」は、観客が各作品を自由に鑑賞・体験できる形式をとり、様々な「醸す」についての考察を体験者に促すインスタレーション作品です。
2022年2月4日(金)に予定されていた試演会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となってしまいました。この連続エッセイでは、滞在制作の様子や城崎で感じたことを、メンバーのうち石橋さん、河内さん、辻本さん、松澤さん、矢野さんの5人にそれぞれの視点で綴っていただきます。
滞在日記【2】は、石橋穂乃香さんによるエッセイです。
自由につくることに集団として向き合い、各メンバーの視点で作品化された「醸す」が空間内で交わる新作「KU的醸すin城崎」は、観客が各作品を自由に鑑賞・体験できる形式をとり、様々な「醸す」についての考察を体験者に促すインスタレーション作品です。
2022年2月4日(金)に予定されていた試演会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となってしまいました。この連続エッセイでは、滞在制作の様子や城崎で感じたことを、メンバーのうち石橋さん、河内さん、辻本さん、松澤さん、矢野さんの5人にそれぞれの視点で綴っていただきます。
滞在日記【2】は、石橋穂乃香さんによるエッセイです。
“きゅうかくうしお”に参加して、今年で5年目になる。
きゅうかくうしおのメンバーは現在9名。
職種はもちろん、生まれた場所も、年齢も、育った環境も、全く違う他人同士が大人になってから寄せ集まった団体なので、集団行動があまり(というかどちらかといえば、かなり)得意ではなかった私には、学ぶことだらけの5年だったように思う。
しかし、その月日の中でも、今回の城崎・KIACでのクリエーションで得たものは私にとって、個人的にかなり大きな意味を持つ時間だった。
KIACに着く前、今まで何度かあったクリエーションの中でも最も長い期間滞在することもあり、「なにをするんだろう。。。」という気持ちが、いつもより大きかった。(大概現地についてから色んなことが決まったり進んでいくので、少なからずこの気持ちは毎回のデフォルトだ。)
「醸す」というテーマだけは決まっているとはいえ、何ができていくんだろう、という漠然とした気持ちが大きく、さらに個人的には今回妊娠中の参加ということもあり、今まで以上に”私がここにいる意味とは?”を自然と考えてしまう時間も多かった。
だがその不安定な気持ちは、初日、城崎に着いてすぐにどこかにいった。
豊岡在住の酒井一途さんの人選のもと行われた、城崎、または城崎周辺に在住しているそれぞれ違う分野でのエキスパートの方々との交流会がまず最初に開催されたのだ。
それに参加していただいた皆さんの面白いことよ!!!!!
面白い、と一言で言ってしまうと語弊があるが、参加していただいた8組9名の皆さん一人一人の個性の豊かな事。今までの人生で出会ったことのないような経歴の持ち主の方しかおらず、最初に行われた自己紹介の時間で私はすでにワクワクが止まらず。
自己紹介のあと私たちきゅうかくうしおのメンバーが一人一人、参加してくれた方にお話を聞く時間を設けていただいたのだが、私は迷わず「タルマーリー」を営んでいる、渡邉格さん・渡邊麻里子さん夫妻にお話を聞かせていただくことに。
photo by 朝倉大地
渡邊夫妻は、鳥取で”自然の菌”だけを使ってパンとビールを作る「タルマーリー」というお店を営んでいる。
自然の菌とは一体どういうことかというと、いわゆる一般的にパン作りに使われている純粋培養の菌は一切使わずに、米麹などをそのまま放置し、そこに空気中から自然に降りてきた菌のみを使用してパン作りをしているという。
そんな自然と共存した生活を送っているお二人のお話は本当に興味深く、お話を聞けば聞くほどお二人の考え、そしてお二人の人間性に惹かれていった。
その中でも、私がひときわ興味深いなと思ったのが、自然の菌を使ってパンを作っている際、マイナスの心のままパンを菌を扱っていると、そこから青カビが出たり、納豆菌(いわゆるネバネバしたやつ)などが出てしまい、商品にならなかった、という話だ。
人の”気”がそこまで如実に作用するなんて…!と大変驚いた。
私は「醸す」というテーマを、城崎に来る以前から「人と人との関わり」に置き換えて考えることがとても多かったので、その考えとのリンクも少なからず感じた。
後日、(有)花房商店の花房さんのレクチャーのもと、きゅうかくうしおメンバーの矢野純子ちゃんと手作り味噌を作った流れで、お味噌はもし表面にカビが生えてしまっても綺麗なスプーンでその部分だけ取り除いてしまえば残りは大丈夫、と聞いたり、お醤油は発酵過程で発生する、害はないけれど風味を損なってしまう酵母菌も混ぜてしまうことで増えないようにする、という事前リサーチ(※)の話も純ちゃんから聞き、それも、人間関係に置き換えられるのでは、と思った。
“きゅうかくうしお”自体、今の体制でやり始めて5年、その中で様々なことが起き、"腐敗"したり"発酵"したりしていた。
この世界での菌によっての”腐敗”と”発酵”も、大きく分けると人間にとって食べられるか食べられないか、ということだけで分けてしまっているが、もちろんそれは人間側のみの判断だ。
(この合宿で、野生の動物で腐った死骸を好んで食べる動物がいる、ということも知った。)
それらを念頭に置き、ワークインプログレスで私は2017年から撮りためた写真達を大きなホワイトボード3枚に沢山貼り付け、自分の言葉達と共に一緒くたにすることによって、全ての菌を攪拌する、という気持ちを込めて展示物を作った。
そしてそのホワイトボード3枚の前には、過去5年間の写真を使ったモザイクアート(沢山の写真・画像を細かくして繋げることで他の写真にする)を展示した。
よーく見ると色んな出来事や事柄はあれど、広い目で見たらまた違うものに見えるかもね、と。
全て、色んな菌のように、それぞれ別の発酵の仕方をして、腐ってしまったりもするけれど、それを取り除いたり、そのまま混ぜ込んだり、そうやって生きてくよね、と。
渡邊さんの著書「菌の声を聞け!」の冒頭で、このような一説がある。
(前略)菌を通じて見ると、生命とはふしぎなものである。各自が好き勝手に生きているのに、全体はバランスよく調和する。結果としてアルコールという人間にとって有益なものが生まれる。
うん、”きゅうかくうしお”もそんな存在であれたらいいな、と私は思う。各自好き勝手に生きているのに、調和し、我々に興味を持ってくれる他者に、有益な何かを与えられたら、それ以上に最高なことはないな、と。
そして、今回の合宿で自分が妊娠していることによって自身の存在価値を認めてあげられず気弱になっていたことも、菌のようにそんなこと気にせずに、自分のありのままでこの場ににいられたらいいんだ、と自分勝手な解釈にも落とし込んだが、それを大きな声で言うと周りから怒られそうなのでここに小さく書いておきます。
※《きゅうかくうしお的醸す》プロジェクトの醸す人リサーチ:醤油ソムリエール 黒島慶子さん
https://kyukakuushio.com/works/works_202110/kamosu_report_3
きゅうかくうしおのメンバーは現在9名。
職種はもちろん、生まれた場所も、年齢も、育った環境も、全く違う他人同士が大人になってから寄せ集まった団体なので、集団行動があまり(というかどちらかといえば、かなり)得意ではなかった私には、学ぶことだらけの5年だったように思う。
しかし、その月日の中でも、今回の城崎・KIACでのクリエーションで得たものは私にとって、個人的にかなり大きな意味を持つ時間だった。
KIACに着く前、今まで何度かあったクリエーションの中でも最も長い期間滞在することもあり、「なにをするんだろう。。。」という気持ちが、いつもより大きかった。(大概現地についてから色んなことが決まったり進んでいくので、少なからずこの気持ちは毎回のデフォルトだ。)
「醸す」というテーマだけは決まっているとはいえ、何ができていくんだろう、という漠然とした気持ちが大きく、さらに個人的には今回妊娠中の参加ということもあり、今まで以上に”私がここにいる意味とは?”を自然と考えてしまう時間も多かった。
だがその不安定な気持ちは、初日、城崎に着いてすぐにどこかにいった。
豊岡在住の酒井一途さんの人選のもと行われた、城崎、または城崎周辺に在住しているそれぞれ違う分野でのエキスパートの方々との交流会がまず最初に開催されたのだ。
それに参加していただいた皆さんの面白いことよ!!!!!
面白い、と一言で言ってしまうと語弊があるが、参加していただいた8組9名の皆さん一人一人の個性の豊かな事。今までの人生で出会ったことのないような経歴の持ち主の方しかおらず、最初に行われた自己紹介の時間で私はすでにワクワクが止まらず。
自己紹介のあと私たちきゅうかくうしおのメンバーが一人一人、参加してくれた方にお話を聞く時間を設けていただいたのだが、私は迷わず「タルマーリー」を営んでいる、渡邉格さん・渡邊麻里子さん夫妻にお話を聞かせていただくことに。
photo by 朝倉大地
渡邊夫妻は、鳥取で”自然の菌”だけを使ってパンとビールを作る「タルマーリー」というお店を営んでいる。
自然の菌とは一体どういうことかというと、いわゆる一般的にパン作りに使われている純粋培養の菌は一切使わずに、米麹などをそのまま放置し、そこに空気中から自然に降りてきた菌のみを使用してパン作りをしているという。
そんな自然と共存した生活を送っているお二人のお話は本当に興味深く、お話を聞けば聞くほどお二人の考え、そしてお二人の人間性に惹かれていった。
その中でも、私がひときわ興味深いなと思ったのが、自然の菌を使ってパンを作っている際、マイナスの心のままパンを菌を扱っていると、そこから青カビが出たり、納豆菌(いわゆるネバネバしたやつ)などが出てしまい、商品にならなかった、という話だ。
人の”気”がそこまで如実に作用するなんて…!と大変驚いた。
私は「醸す」というテーマを、城崎に来る以前から「人と人との関わり」に置き換えて考えることがとても多かったので、その考えとのリンクも少なからず感じた。
後日、(有)花房商店の花房さんのレクチャーのもと、きゅうかくうしおメンバーの矢野純子ちゃんと手作り味噌を作った流れで、お味噌はもし表面にカビが生えてしまっても綺麗なスプーンでその部分だけ取り除いてしまえば残りは大丈夫、と聞いたり、お醤油は発酵過程で発生する、害はないけれど風味を損なってしまう酵母菌も混ぜてしまうことで増えないようにする、という事前リサーチ(※)の話も純ちゃんから聞き、それも、人間関係に置き換えられるのでは、と思った。
“きゅうかくうしお”自体、今の体制でやり始めて5年、その中で様々なことが起き、"腐敗"したり"発酵"したりしていた。
この世界での菌によっての”腐敗”と”発酵”も、大きく分けると人間にとって食べられるか食べられないか、ということだけで分けてしまっているが、もちろんそれは人間側のみの判断だ。
(この合宿で、野生の動物で腐った死骸を好んで食べる動物がいる、ということも知った。)
それらを念頭に置き、ワークインプログレスで私は2017年から撮りためた写真達を大きなホワイトボード3枚に沢山貼り付け、自分の言葉達と共に一緒くたにすることによって、全ての菌を攪拌する、という気持ちを込めて展示物を作った。
そしてそのホワイトボード3枚の前には、過去5年間の写真を使ったモザイクアート(沢山の写真・画像を細かくして繋げることで他の写真にする)を展示した。
よーく見ると色んな出来事や事柄はあれど、広い目で見たらまた違うものに見えるかもね、と。
全て、色んな菌のように、それぞれ別の発酵の仕方をして、腐ってしまったりもするけれど、それを取り除いたり、そのまま混ぜ込んだり、そうやって生きてくよね、と。
渡邊さんの著書「菌の声を聞け!」の冒頭で、このような一説がある。
(前略)菌を通じて見ると、生命とはふしぎなものである。各自が好き勝手に生きているのに、全体はバランスよく調和する。結果としてアルコールという人間にとって有益なものが生まれる。
うん、”きゅうかくうしお”もそんな存在であれたらいいな、と私は思う。各自好き勝手に生きているのに、調和し、我々に興味を持ってくれる他者に、有益な何かを与えられたら、それ以上に最高なことはないな、と。
そして、今回の合宿で自分が妊娠していることによって自身の存在価値を認めてあげられず気弱になっていたことも、菌のようにそんなこと気にせずに、自分のありのままでこの場ににいられたらいいんだ、と自分勝手な解釈にも落とし込んだが、それを大きな声で言うと周りから怒られそうなのでここに小さく書いておきます。
※《きゅうかくうしお的醸す》プロジェクトの醸す人リサーチ:醤油ソムリエール 黒島慶子さん
https://kyukakuushio.com/works/works_202110/kamosu_report_3
きゅうかくうしお 石橋穂乃香/ほのちゃん
2007年日米映画『はりまや橋』(監督 アロン・ウルフォーク)で女優デビュー。2010年『カフカの変身』(演出 スティーブン・バーコフ)で舞台デビューを果たし、その後映画・演劇を主に活動している。近年の出演作に舞台『ニンゲン後破算』(2018年 作・演出 松尾スズキ)。きゅうかくうしおの活動から裏方にも携わるようになり、『Who's Playing That Ballerina?』(2020年 作・演出 根本宗子)の演出補で携わるなど創作の場を広げている。