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photo by bozzo

ーきゅうかくうしお的醸すin城崎ー 滞在日記【4】
きゅうかくうしお・松澤聰

2022.8.25

パフォーマンスユニット「きゅうかくうしお」のメンバー9名が、2022年1月23日~2月5日城崎国際アートセンターに滞在し、リサーチと新作のクリエーションを行ないました。作品のテーマは「醸す」。
自由につくることに集団として向き合い、各メンバーの視点で作品化された「醸す」が空間内で交わる新作「KU的醸すin城崎」は、観客が各作品を自由に鑑賞・体験できる形式をとり、様々な「醸す」についての考察を体験者に促すインスタレーション作品です。
2022年2月4日(金)に予定されていた試演会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となってしまいました。この連続エッセイでは、滞在制作の様子や城崎で感じたことを、メンバーのうち石橋さん、河内さん、辻本さん、松澤さん、矢野さんの5人にそれぞれの視点で綴っていただきます。
滞在日記【4】は、松澤聰さんによるエッセイです。
1月にしてはそこまで寒さを感じない陽気の兵庫県豊岡市竹野の山中。
寒さはあまり感じなかったものの、日本海側特有の冬の晴れ間の少ない空と前日の雨でぬかるんだ地面が、今から起こるであろう出来事をより象徴的にするような気がして撮影に入ったのを思い出す。

出会い


きゅうかくうしおは城崎国際アートセンター(KIAC)に1月後半から2月初頭までの2週間レジデンスでお世話になっており、レジデンスの初日に豊岡やその周辺で活動されている方々を招いて交流会を開催し、地元城崎の最後の芸妓さん・粘菌について研究されているコウノトリ文化館の研究者・野生の菌から酵母を取り出してパンやビールを作るパン屋さんなど多種多様な活動をしている方々の話を聞かせていただいた。
photo by 朝倉大地

その中に日本海側に面した地域の竹野で害獣の罠猟をされている森上さんもいらっしゃり、森上さんの自然でざっくばらんな人柄と罠猟というワードに興味を持ち、我々の滞在中に獲物がかかったら同行させてほしいとお願いをした。


罠猟


書いて文字の通り、罠を使う狩猟方法のことを言い、箱縄と呼ばれる檻の入口が大きく開いて獲物が入ったら閉まり閉じ込めて捕獲するような罠やトラバサミと呼ばれる足を乗せると体重の重さで足を挟み込む(ビデオゲームのパックマンのような)罠があるが、今回の場合は近年では主流になっているらしい『くくり罠』と呼ばれるバネとワイヤーを使った罠、ワイヤーで輪っかを作りそこに足を踏み込むとバネが外れワイヤーの輪っかが瞬時に萎められて獲物の足をワイヤーでひっかける、というような構造の罠にかかった獲物を仕留める現場にきゅうかくうしおから私を含めて4名のメンバーが同行することになった。
個人的には意図を持った形での動物の死を目撃することも初めてではなかったし、自分で家畜のニワトリなどを肉を食べる者として避けたくないと思い、食肉にするために絞めることを体験したこともあり恐怖心などはなかった。今回も罠猟がどんなものか、シカを絞めるのは見たことがない、改めて死をどう自分は感じるのか、などといった興味本位からの参加だった。



これから私たちは罠猟で生け捕りにしたシカを仕留める現場に立ち会う。


滞在5日目に森上さんからくくり罠にかかったシカがいると連絡をもらい、立ち会うことになった我々きゅうかくうしおのメンバー4名は、森上さんが猟場としている竹野の森へ向かった。前日の雨で地面はぬかるみ、空は厚い雲に覆われ灰色で、猟場の近くに放置された産廃所らしき跡地にはタイヤや鉄片やプラスチックなどありとあらゆるゴミが散らばっていて、これから起こる出来事もあり頭のどこかで『死の森を象徴したような場所だな』と感じたことを思い出す。猟場に到着して森上さんは淡々と準備をして、長い槍と金属バットを手にして森に入っていく姿が印象的だった。それに我々も淡々と後について森の奥へと入っていく。4名それぞれ何かを感じながら、何かを見ながら。


何が起きた


罠にかかっていたのは真っ白のおしりをした濃い灰色の体をした小鹿だった。昨日の雨で体は濡れてこちらを真っ黒の目をして見つめている。
我々近づくと小鹿は逃げるそぶりを見せたが左前足にかかったワイヤーで逃げることはできないでいる。『これからこの可愛い小鹿は死ぬんだな』森上さんは罠にかかった小鹿を写真に撮り、長い槍と金属バットを持って小鹿に近づく。小鹿は更に逃げようとする。『可哀そうだけどしょうがない』右手に持った金属バットをスッと振りかざして小鹿の頭を軽く打つ。”カンッ”金属バットの音がする。小鹿は倒れこみ体は小刻みに痙攣している。槍の刃先についたカバーを取り外し”ザクッ”小鹿の皮膚が裂ける音と共に心臓を突き刺し、小鹿は何度か足を動かし絶命した。
小鹿を初めて見てから1分にも満たない時間で小鹿は死んだ。
そこから小鹿の足を引っ張り近くに小川へ持っていき、足の付け根の皮にナイフで切れ目を入れてから体全体の皮を剥いで背骨に沿ったヒレの部分の肉を削いでいく。その工程もその前の絞める工程も驚くほど手際がいい。手際がよくて残酷さがない(そもそも肉を食べる者が残酷さを語る資格はないかもしれないが)。

『今削いだ肉って生でも食べれますか?』無理を言って削いだばかりの生肉を口に入れてみた。体温をまだ感じる弾力のある肉でおいしくはない。しかし私の中でこのシカが生死を見学し思考する対象から食事という行為の対象に変わった気がした。つまり非日常的な罠猟におけるシカの死は、初体験であることのビジュアル的な驚きはあったのだけど、食という観点においては、日常にあふれる出来事の一つとして私の中で腑に落ちた。



そして


この体験を通して、他の3名のメンバーは何を感じたのだろうか?私は改めて3名にインタビューをした映像を今回のKIACでのレジデンスで作品にした。3人3様で感じたことが違って、そして3名とも間違っていないように思えた。どこかで披露できるのなら見ていただきたいと思う。



最後に、取材に協力してくれた猟師の森上さんとアテンドしてくれた酒井さんには心から感謝の意を伝えたいと思います。貴重な体験をさせていただき本当にありがとうございました。

photo by bozzo

photo by bozzo

 

きゅうかくうしお 松澤聰/映像
大阪市出身。イスラエル国立ベツァレル美術デザイン学院映像学科卒。高校卒業後、オーストラリア/アジア8ヵ国を2年間バックパッカーとして旅をし、その後一時帰国し車の製造ラインで1年間働き資金を貯めてヨーロッパを通りイスラエルへ移り、当地でイベントカメラマンとして働きながら、イスラエル・パレスチナを取材し日本のWEBマガジンに記事を寄稿。イスラエル滞在4年目に当地の美術大学へ進学しビデオアート・ドキュメンタリーを学び卒業、2015年帰国し愛知県西尾市を拠点に映像制作を開始。現在は、西尾市と東京の2拠点で活動中。