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photo: igaki photo studio

「買われる」私たち、眼差しの関係 〜『最後の芸者たち』通し稽古をみて~
山田淳也(芸術文化観光専門職大学2期生)

2022.9.8

 2022年5~6月と7月に滞在制作を行ったHydroblast『最後の芸者たち』。映画監督で俳優の太田信吾と、共同創作者である俳優の竹中香子らが、城崎温泉の”最後の芸者”秀美さんとの出逢いをきっかけに、2021年より開始したプロジェクトです。芸事の稽古や芸者への取材を行い、一見あたりまえの「おもてなし」の演出を、俳優の身体を通し観察することで、文化の継承、労働環境におけるヒエラルキー、身体的性とジェンダーアイデンティティ(性自認)を考察するパフォーマンス作品を創作しました。
 7月滞在制作時、芸術と観光を学ぶ若い世代との交流のため、芸術文化観光専門職大学の学生を通し稽古に招待し、意見交換を行いました。稽古を鑑賞した山田淳也さんから届いた鑑賞ノートを紹介します。
薄暗い廃墟のようなセットの奥から芸者が登場し、一人で踊り始めるところから通し稽古は始まった。
ゆっくりとなにかの手によって無理やり動かされるような踊りは長く続く。
しかしたしかにその振り付けの先に芸者はイメージを見ている。
そしてそのイメージはけして風流なだけのものではないのだろうと見ているものは感じとる。

芸者は大きな瞳で観客を見ていた。
見られていることが、見ているという行為を浮き彫りにする。
そこには容易に反転可能な危うい上下関係が発生しているように感じた。

劇は芸者の日常を切り取るようにしてコラージュされていく。
言葉が風景を切り取って体に作用したと思うと、体が風景を浮き上がらせて言葉に作用していくようでもあって、関係は反転しあう。
シーンの接続はストーリー性を持たず、風景やイメージが、緩やかにつなぎ合わされていくような感覚だ。

撮影: igaki photo studio

 

一見曖昧なまま終わっていくようにみえるが、この劇はだんだんとあるテーマをクリアに訴えかけ始める。
それは『日本という国がさらされている「眼差し」日本自身が日本へと向ける「眼差し」について』だ。
見ることと見られることのアブナイ関係。
芸者、オリンピック、フィギュアスケート、クールジャパン。
伝統を晒し、売る。身体を晒し、売る。
そこには必ず、売り手と買い手がいる。
ちょうど演劇に、役者と観客がいるように。

日本は何を売ってきたのか。
誰に買われてきたのか。
売り買いを繰り返すうちに私達自身すら、もともとどんな価値がこの国に、
自分達の体にあったのか、を忘れてしまったのかもしれない。

撮影: igaki photo studio 撮影: igaki photo studio

私達は他人に見られていると同時に自分自身にも見られている。
自認とは自分への眼差しだ。でも自認って後回しにされがちだ。
そんな色々な感想を持った通し稽古だった。

 

山田淳也
芸術文化観光専門職大学(兵庫県豊岡市|2021年開学)2期生。から傘に所属し、劇作・演出を担当。 「想像」と「意識」を通して身体を超現在志向の状態にする方法で演劇、ダンスの領域で活動している。演劇のメディアは「社会」であると考え、政治や教育と芸術が融解した世界観を構想し、オルタナティブな「社会=演劇」を創作するための活動をしている。
第67回全国高等学校演劇大会出場。劇作家協会新人戯曲賞2022ノミネート中。
Twitter @flclaltena


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公演情報はこちら!
Hydroblast 第3回公演「最後の芸者たち」
https://www.hydroblast.asia/last-geisha
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