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Crossing the Sea – 城崎国際アートセンター:アーティスト交換プログラム
~イタリア滞在記~
高橋萌登

2022.11.27

イタリアのアーティスト国際化プログラム「Crossing the Sea」と「城崎国際アートセンター」による交換プログラムとして、2022年9月15日から10月2日の間、ダンサー・振付家の高橋萌登を、マルケ州ポルヴェリージでのレジデンスと、トスカーナ州にあるアンギアーリ・ダンス・ハブが主催する若手振付家・ダンサーのためのセミナーへ派遣しました。拠点とする東京を離れ、しばらく休止していたソロダンスの創作と現地での映像制作を行った2週間の滞在制作のレポートが届きました。
〈1、2日目〉出国~到着
成田空港より夜の便で出発、トランジット先のドバイへ。約11時間のフライト。久しぶりの飛行機で空港から緊張。ドバイに着いたら約5時間待機。ドバイ空港はイメージ通り煌びやかで大きな空港、当たり前なのだけど色んな人種の人が各々の時間を過ごし、目的を持ってそこにいて雑多そのものだった。そしてボローニャ空港へ。約6時間のフライト。なかなかの長丁場。空港に着いたら自力で移動。モノレールに乗ってボローニャ中心地の駅まで移動して、電車に乗り換え。この駅の乗り場がややこしく何番線がどこにあるのかなど迷いギリギリだったけど無事に乗ることができた。日本のように親切に細かく案内があるわけではないので慣れていないと難しい。そして事前に予約してもらっていた席を探して見つけたはいいものの、既に人が座っていてまたも問題発生。英語で話しかけたらめちゃくちゃイタリア語で返されて訳の分からないまま違う席に誘導された。イタリアあるあるらしい。真相は謎のまましばらく電車に揺られアンコーナ駅へ。気をつけていないと乗り過ごしそうだったので車窓からずっと景色を眺めていた。家の外壁の色がカラフルでかわいい街並みが続いた。たまに羊とか牛とかが見えた。駅に着いたらドライバーの方と落ち合い、車でポルヴェリージへ。どこまで登っていくのだろうと思うくらい丘や街を越え、やっと着いた。滞在先のVilla Nappiは丘の上にあり、丘のなだらかな斜面が美しく自然に囲まれた穏やかな気持ちになれる場所。田舎育ちの自分にはぴったりである。到着したら諸々説明を受け、近くにあるスーパーに買い出しへ。自炊が主なのでスーパーが近くにあるのがとてもありがたい。泊る所もVilla Nappi内で、部屋の中にバストイレがついているので何の不便もない。wifiもある。そしてリハーサルルームがすぐ上の階にあり、いつでも使っていいとのこと。鏡や音響設備もあり眺めも良く風と木の温もりを感じながら練習できる。最高。そんな感じで1日目と2日目は終了。

 ↑ 滞在先のVilla Nappi

 ↑ 丘の上からの景色

〈3日目〉
本当はこの日受け入れ団体のマルケ・テアトロから来たクリスティーナさんに街を案内してもらう予定だったが嵐並みに雨が降るとのことだったので中止になり建物内で色々お話を聞くことになった。Villa Nappi の古い歴史についてやイタリアの劇場についてなど。どんな作品をここで作りたいかと問われたけれど、まだこの時点で作品について固まっておらず、日本語でも作品の説明は難しいので英語では尚更上手く言葉にできなかった。ただクリスティーナさんは日本の漫画やアニメが好きらしくその話は盛り上がったので、漫画アニメは万国共通で強いなと思った。ダンスも言葉関係なく繋がれるものだと思うのでもっとそうなったらいいなと思う。その後施設内にあるレストランに行ってランチをした。本場のカルボナーラは日本のと全然違いクリーム感はなく、クリスティーナさん曰くカルボナーラにミルクや生クリームは絶対入れちゃダメとのこと。美味でした。そのあとは雨が降っていて外に出ることはできないので稽古を開始。体慣らしにいつもの基礎練習をする。練習をしていると外から鐘の音が聴こえてきた。大雨が降っている中あちこちで鳴り響く鐘の音が強烈で不穏なのにすごく心地よかった。海外で教会の鐘の音を聴くことはあったけれどここまで強く感じたことはあまりなく、忘れられない時間になった。そしてこれを作品の核にしたいと思った。今回音楽はこの土地で録音してオリジナルで制作するつもりなので音も日々記録していく。

 ↑ 稽古場からの景色、左にあるのは教会

 ↑木のぬくもり感じる稽古場

〈4日目〉
いい天気だったので朝から音素材集めを兼ねて散歩しに行った。カラッとしていて爽やかな気候。入り組んでいる道が多いけど地図を持っていなくても何となく方角でどこら辺にいるのかわかる地形。細い路地や急な坂、突然現れる見晴らしのいい草原など探検しているようで発見があり面白い。住人が少ないのか人とはあまりすれ違わないけど車の交通量は多い。電車やバスがあまりないようなので車は必須なようだ。ちなみにアジア人は全く見ない。そのあとお昼から稽古。昨日今日と録音した音を使って音楽も作り始めた。ここは夕日が特に綺麗だと感じる。丘がオレンジ色に染まるのがいい。

 ↑ ハロウィンのかぼちゃが沢山

 ↑ お気に入りの場所

〈5日目〉
今日は一日稽古。意外と時間がないということに焦り始めた。あーでもないこーでもないと思いながら一人黙々と作った。ソロ作品を作るのは3年ぶりくらいで前の感覚とはまだ違うところはありつつ、なんで作品を作るのか、なんで踊るのか、踊って何を伝えたいのかなどソロだと余計に気になって結局そういうところを今回も考えながら作品を作っている。外には出なかったけど窓を開けると清々しい空気や音を感じるので気持ちよく創作できるので鬱々とはしないでいられる。

 ↑ 今日の景色

〈6日目〉
今日も稽古。途中クリスティーナさん達がオフィスに来るというので同僚の方と共におしゃべりをした。皆気さくでいい方々です。この日は夕方には稽古を終了して夜は音楽制作に時間を使った。施設内の教会やレストランに人が集まったりすると会話や礼拝の声が聞こえてくる。イタリア語のアクセントやリズムが興味深くそういう音も素材として使用してみることにした。

 ↑ 今日の景色

〈7日目〉
今日は一日稽古。8割くらいできた。今回ダンス映像も制作するので映像バージョンとライブバージョンの二面を考えながら作っている。作品の中での時間の掛け方や流れが映像と生では異なり、見せ方のアプローチをそれぞれどうするか試行錯誤が必要。

   ↑ 黙々と稽古

〈8日目〉
今日はクリスティーナさんにアンコーナという港町に連れて行ってもらいました。イタリアの中でも大きくて歴史があるTeatro delle Museという劇場へ見学に。劇場の中に映画館やバー(3つも)や舞台と同じ広さの稽古場など立派な建物でリノベーションしつつ歴史が残る部分もあり素敵な劇場でした。座席が5階席まであるので天井がめちゃくちゃ高かった。これがイタリアのスタイルだというようなことを説明された。そう言われると日本式の劇場とはどんなのだろうかと考えた。やっぱり伝統芸能をやるような劇場になるのだろうか。劇場の形って様々で面白い。バックヤードや屋上なども見せてもらい満喫した。1人なら迷子になるくらい広大だった。こんなところで公演してみたい。

そのあとは1人でアンコーナの街を散歩した。海外の教会を見るのが好きなので教会巡りへ。中の装飾やデザインは見飽きることなく、教会それぞれ大きさ、飾られている物、デザインや雰囲気など個性があり興味深い。偶然ミサにも立ち会えた。教会内の音の響きがとても良く気持ちがいい。人が少なく静かで神聖な空気が落ち着く。私には信仰しているものがないから自分が信じる何かに祈りを捧げる場所や対象、気持ちがあるっていうのが少し羨ましくもある。希望みたいな。一番高い丘の上にある教会に行ったら街が見渡せて、素晴らしいエメラルドグリーンの海と暖色系で統一感のある街並みが最高に綺麗でした。ここに住んでいたら毎日ランニングしに来たいようなところ。日本の海とは違い潮風の匂いがせず、カラッとしていた。本当にまだまだ知らない景色が沢山ある。いい刺激になりました。明日は撮影をするので帰って練習した。

        ↑ Teatro delle Muse

 ↑ 丘の上から

〈9日目〉
午前中から練習して、14時くらいから外に撮影に繰り出した。ロケハンは散歩の時にしていてプランも一応考えていった。とてもいい天気、ちょっと日差しが暑い。こっちは湿気がないので全然汗をかかない。色んなところで撮影ができた。人があまりいないから気にせず撮れるのもいい。一人で撮っているので思うような画にならないこともあったけどここでしか撮れない映像が確実に撮れたと思う。やはりここは夕暮れがとてつもなく綺麗。癒し。関係ないけどイモリ(っぽい)がめちゃくちゃ多い。



〈10日目〉
ポルヴェリージ滞在最後の日。
まだ撮ってない室内のシーンを午前中から撮影した。足場の関係でやはり室内が一番踊りやすい。当たり前なんだけども。セルフだけど色々試行錯誤して何とか撮り切れました。あとは編集するのみ。沢山使わせていただいた稽古場に感謝。 いよいよ明日からアンギアーリへ。

 ↑ 最後の景色

〈11日目〉
朝4時30分起き。5時45分に雨が降る中タクシーでアンコーナ駅へ。アンコーナからボローニャまで電車。ガラ空きで今回はちゃんと席を確保できました。ボローニャ駅で通訳の並河さんと合流。そこからまた電車でアレッツォ駅へ。アレッツォからは車でアンギアーリまで行けるとのことなので、迎えが来る時間まで並河さんと教会巡りをした。アレッツォはおしゃれなお店が沢山あり観光地のように整備されているように感じた。ザ・ヨーロッパ感がテーマパークにいるような気分になる。古い建造物が沢山残っていて、教会も近いところに固まっていたのでいくつか回ることができた。ここでも鐘の音があちこちから聞こえてきた。歴史とか知ってたらもっと違った角度で見れると思う。
街の真ん中に大きな広場があり、アレッツォの歴史が知ることができる美術館があったので行ってみた。建物の一番上に天文時計の心臓部があり直近で動いているところを見ることができ興味深かった。こういうの好きでずっと見ていても飽きない。1552年からずっと時を刻み続けているらしい。鐘が鳴る時に歯車と連動している部分がブンブン猛烈に回り出すのが意味わからなくて面白かった。一体どういう仕組みなのか不思議でならなかった。多分説明聞いてもわからないと思う。その後ダンスセミナー講師のギーさんと一緒の車に乗りアンギアーリへ。

 ↑ 時計台の上から見た広場

        ↑ 天文時計の心臓

〈12日目〉
アンギアーリもまた歴史深く童話の世界のような素敵な建造物が残されています。アンギアーリの戦いが有名なところで所々当時利用していた通路や城址が現代でも違う形で利用されている。そして坂が多い。猫もわりといる。宿は城址の方にあるので高台にあり街が見渡せて良い景色。景観を崩さないよう統一された街並みはどこを切り取っても絵になる。お店の人たちは気さくで感じのいい人が多い。並河さんと一緒にピザや郷土料理を食べに行ったけど全部美味しい。
そして今日からアンギアーリダンスハブのギー・クールズさんの講習を5日間受ける。私はこの回のみ参加させてもらったが、他の参加者はイタリア周辺から集まった35歳以下のアーティストで9月から12月まで作品を作りながら色んな講師のセミナーを受けて最後に成果発表するとのこと。長期間かけて色んな刺激を受けながら作品を成長させていける機会はとてもいいなと思った。振付家だけでなく同じプロジェクトに関わるダンサーや演出家も講習に参加しているのも共有できていいと思う。
ギーさんの講座はダンスにおけるドラマトゥルギーをテーマにしていて、ざっくり言うと色々なメソッドを即興的に行いその都度皆でフィードバックを行うという内容。ギーさんは決して強要や否定をしない。普段私がやらないようなワークを受けられるのでどれも新鮮で、他の参加者がどう取り組んでいるのかも客観的に見て勉強になっている。この日行った一対一で15分間ひたすら自分の日課を話すというワークが日本語でも難しかった。不規則な生活をしている自分にとって日課ってあまりない。もしかしたら気づいていない日課もあるのかもしれないとも思った。午後は毎日セミナー受講者1組の作品を近くの劇場で講師に途中経過を見せるというので見学させてもらう。人の稽古はなかなか見ることができないのでありがたい機会。

 ↑ 城跡から見た景色、長い一本道

 ↑ 劇場の天井

〈13日目〉
セミナー2日目、午前中からスタート。昨日行ったダンスのワークとボイストレーニングを最初にやりました。二回目なので昨日とはまた違った感覚で取り組むことができた。ボイストレーニングこそ普段やらないので新鮮で、動きにしても声にしても意識するということは変わらないのでトレーニングを続けていけばこれまでと違った捉え方ができるようになるかもしれないと思った。そのあと各自の鞄を真ん中に集めて鞄から私物を取り出して放射状に並べていくというワークをやった。どこまで見せるかは自分で決める。それから並べた物を見合う時間があり、並べ方から人それぞれ癖があって私物もその人がわかるような個性が出ていて興味深かった。参加する人によってまた全然違う印象になるだろうから色んな人とやってみたいと思った。まだ出会って間もない人たちとこういったワークをやることで少しだけその人のことを知ることができて外見だけでは見えてこなかった部分を知るきっかけとしても使える。

〈14日目〉
セミナー3日目。この日も二つのトレーニングを最初に行った。基本的に即興なので日を重ねるごとに慣れていき大胆にもなっていく。その後、私物を二つ持ちより集めて、3人1組で1人ずつその集めた物を好きに置いて形にしていくというインスタレーションみたいなワークをやった。私物は小さい物から大きい物まであり、1組目は協調性があり3人で目標に向かって積み上げていくような印象を受け、2組目はまた全然違って構築と破壊が多く最後まで先が読めないような展開で面白かった。3組目に私は参加して、3組目に関しては物だけでなく人も使っていいということだったのでより選択肢があった。前の2組は物だけで無機質だったり人の存在は感じつつもそこにはいない感があったが、人が舞台上に登場することで一気に物語性やキャラクター性が生まれた。言葉はいらず何かの終着点に向かって目の前の物事に皆で取り組むというのが、セミナー全体の中で1番楽しめたワークだった。午後はスペースを借りて自主練をした。

 ↑ ソロの練習

〈15日目〉
セミナー4日目。いつものトレーニングから。ダンスのトレーニングは朝早くてまだ体が動かないところから動きを繰り返すことで段々体が立ち上がっていくのが心地よい。そのあと、15分間外に出て聴こえてくる環境音からリズムを見つけてそれを体に落とし込み、気づきを書き留めるというワークをやった。このワークは今回のソロ作品とリンクするところがあった。ただ15分は短くてなかなかピンとくるリズムが見つけられなかった。音を探すより偶然の出会いで見つけられることが一番理想に近いと思った。それから自分の作品についてのマインドマップを作成した。時間が短くなかなか発展できなかった。少し不完全燃焼でこの日は終わった。
関係ないけどアンギアーリに来てから天気が不安定で雨が割と多く、朝や夜に街全体を包み込む霧は幻想的でかっこよくて好きな光景。天然のスモークマシン効果である。舞台でもこういう風にしたいなぁという気持ちになる。

 ↑ 4日目のワーク

〈16日目〉
セミナー最終日。いつものトレーニング、5日目ともなると自分のものにはなってきていてより考えないでもできるようになってきた。そのあと映像を観た。一つは動きのトレーニングの元になった映像で、一般の人たちが皆集まって一心不乱に音楽に合わせて体を揺らしていた。振付など決まっていないと思うけれどなぜか揃っているユニゾン感が面白かった。二つ目はAkram Khanの作品のドキュメンタリーと舞台映像を観た。大分前の作品だったけれどクリエーションの様子も込みで面白く刺激になった。
午後にポルヴェリージで作ったソロ作品を講師のギーさんに観てもらいました。
ギーさんは知識が豊富でこういうアーティストがいて参考になるかもということを教えてくださいます。ドラマトゥルギーとして否定や意見を言わずアーティストの意向を汲み取りサポートするという立場で、なるほどそういう見方もあるかなど自分の目だけでない他者の目があることで作品の可能性が広がるということがわかった。自分の信頼できる人がサポートしてくれてより作品が良くなる方向に持っていけるようになるのなら素晴らしい役職だと思う。そんな人を私も見つけたい。



最後に、
今回の滞在ではクリエーションだけでなくダンスセミナーを受けることができ、単純に自分一人で作って終わりではなく他者と関わることで生まれる考えや感情を作品に反映できるので振付家にとってとてもいい機会だと思いました。滞在した場所も都会ではなく、長閑なところでその土地独特の雰囲気や環境を感じることができよかったと思います。
この年齢になってやれることや分かることもあるので、このタイミングで行くことが出来てよかったですし、気づきや発見も多かったので一つの分岐点になりました。

アーティスト交換プログラムはなかなかなく、貴重だと思うのでこういう機会がもっと増えたら嬉しいです。
この企画に関わっている方々全員に感謝申し上げます。ありがとうございました!

 

 

高橋萌登
ダンサー、振付家 、ビデオグラファー 幼少よりクラシックバレエを始め、2011年より、東京 ELECTROCK STAIRS のメンバーとして国内外の公演に出演。 2013年より創作活動を本格化し、これまで長編4作品、短編9作品を発表。 ソロ作品で、Rencontres Choregraphiques Internationales de Seine-Saint-Denis(Paris)、Festival Fabbrica Europa(Firenze)など海外フェスティバルに招聘。 2021年、横浜ダンスコレクション 2021にて『幻モキュメント』で審査員賞と城崎国際アートセンター(KIAC)賞を受賞。 また近年は、自身で制作するダンス映像作品にも力を入れ、ビデオグラファーとしても活動の幅を広げている。