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小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』オープンリハーサル photo by 髙橋遥

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』KIAC滞在レポート①
大石英史

2023.10.2

2023年7月19日(水)~8月7日(月)の約3週間、KIACで滞在制作を行った、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』
参加メンバーの滞在制作レポートを4回に分けて掲載します。
第1回は、俳優の大石英史さんです。
城崎での滞在レポート

3週間の滞在で真っ先に思い出すことは、昼と夜に頂いた太田夏来さんの料理だ。本当に美味しく、毎食楽しみだった。残った昼や夜の食事は、冷蔵庫に入っていて、次の日は朝食として頂いていた。
私は滞在期間中、出石そばをお昼に1回、朝食を2回喫茶店でとった以外は、すべて太田さんの食事を食べて過ごしていた。どうしてもしたかった出石そば20杯チャレンジ以外は、太田さんの美味しい食事を逃したくなかったのだ。
私は参加しなかったが、太田さんの水キムチ、スパイスカレーレクチャーがあり(太田さんへ料理の作り方を教えて欲しいという希望が多くあったため)、希望者はクリエーションの時間外で料理を教わっていた。

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』オープンリハーサル photo by 髙橋遥

たしかにクリエーションも充実した時間であったが、真っ先に思い出したのはクリエーション以外の豊かな生活の時間だった。
それはスペースノットブランクの、皆の時間を圧迫させないクリエーションのあり方によるものだった。

城崎国際アートセンターは宿泊かつクリエーションの場である。泊まっている場所から1分足らずで、クリエーションをしている場所へ行ける。しかし、いつでもクリエーションができるからとクリエーションが変則的になることはなかった。滞在前に提示された週休2日、10時から17時までのスケジュール内でクリエーションは行われた(ワークインプログレスの前日だけ例外的に30分の延長があった)。
その結果、皆が自分の時間を大切に過ごす環境が自ずと出来ていた。私自身もクリエーション以外のことを丁寧に考えることができた。朝から20時頃までクリエーションをおこなった頭で考える「どの温泉に今日は入ろう」と、17時で終わった後に考える「どの温泉に今日は入ろう」では全然違う。日常の選択をタスクとしてこなすのではなく、もっとクリエイティブに日常の選択が出来ていた。
そして、そのことはクリエーションにも良い影響を与えていた。稽古以外の時間を個々人のペースで過ごすことが、各々が自分のペースでクリエーションに参加する土壌となっていた。それは決して協調性といった言葉で片付けられるものではなく、各々がそれぞれの欲望を発揮した上で、他者の欲望も尊重して関われているように感じた。それは城崎の滞在で、それぞれの時間を過ごしながらも共に生活をしている関係に近かった。

スペースノットブランクのお二人はクリエーションに各々の城崎での時間を作品に使うようなことはしなかった。だが、城崎でのメンバーの生活の有り様は反映されていたように思う。
舞台上での私たちは、個々のタイムラインを過ごしているが、時に他者と混じり合うような時間を過ごしていた。それが城崎との生活と似ていると思った。それが単に城崎での滞在をドキュメンタリー的な作り方で立ち上がるのではなく、各々が舞台上での個別のタスクを背負いながらも共にいるという状態から立ち上がっていることを私は面白く思った。
私は、個として皆が舞台に立っているように感じていた。しかし、客席から観たら、私たちは一つの集団なのだろう。そして、個と思いながらも、私は集団の一部となり、集団における振る舞いをしていたのかもしれない。

1月の吉祥寺シアターでの上演に向けて、この集団がどうなるのか、私のこの集団の捉え方がどう変化するのか、今から楽しみである。


大石英史
大阪府出身。俳優。
2015年から2020年までdracomに登録メンバーとして参加。
過去には、お寿司、孤独の練習、akakilike、市原佐都子/Q、努力クラブ、ブルーエゴナク、THE ROB CARLTON、劇の虫、庭劇団ペニノ、維新派、新聞家、トリコ・A、ソ・ヒョンソク、sons wo:、村川拓也、藤田貴大などの作品に出演。また、国内外の演劇祭に多数参加。


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