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小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』オープンリハーサル photo by 髙橋遥
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』KIAC滞在レポート②
野間共喜
2023.10.2
2023年7月19日(水)~8月7日(月)の約3週間、KIACで滞在制作を行った、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』
参加メンバーの滞在制作レポートを4回に分けて掲載します。
第2回は、舞台音響・パフォーマーの野間共喜さんです。
参加メンバーの滞在制作レポートを4回に分けて掲載します。
第2回は、舞台音響・パフォーマーの野間共喜さんです。
城崎国際アートセンター(KIAC)でのレジデンスを終えて
大体毎年、5月くらいからサンダルを履き始めて、11月くらいまではサンダルのまま過ごしていたくて、一年の半年くらいは靴下を履かなくても良いという足元事情が僕にはあります。去年は少し安物のサンダルを買って一年でダメにしてしまったので、今年はせっかく城崎に行くし、現地で草履か下駄を買おうと決めていました。
KIACでの滞在を共に過ごしたおnewの下駄は、今も京都で良い音を鳴らしています。今日もその下駄を履いて、京都芸術センターに行ってきました。スペースノットブランクと松原俊太郎さんの新作である『ダンスダンスレボリューションズ』のオープンリハーサルをみにいきました。僕たちのクリエーションとは別物に見えましたが、不思議とKIACでの創作の空間、時間、空気が脳裏に香りました。それでこの文章を書ける気になって書き始めているところです。
下駄だけじゃなくて、KIACから持って帰って、今もぶら下げて過ごしているものごとはいくつもあります。
まず、カレー。スリランカカレーと日本食を専門とするシェフが毎日の食事を準備してくれていました。僕はもともとスパイスカレーが好きで、今回食べたスリランカカレーとは奇跡の出会いでした。僕がこれまで手探りで身につけてきたスパイスカレー作りの概念を泣けるほど壊されました。これまではカレー作り=玉ねぎを炒めること、というイメージがあり、どれだけ玉ねぎを炒めつけ、水分を飛ばし、茶色くするかということに躍起になっていました。そんな僕に、スリランカカレーは優しさを教えてくれました。ココナッツオイルの風味を土台に、スパイス抜きでも美味しい煮込み料理を作るという心持ちを忘れないこと。玉ねぎを油で炒めつける必要も、野菜から出る水分だけで作ることにこだわる必要もないということ。スリランカカレーの基本となるミックススパイス、「トゥナパハ」の構成と、さらにそれらのスパイスを煎ることによって香りを強められること。そのスパイスをミルで、パウダーに、あるいはニンニクなどと混ぜたペーストにする使い方や、「後からテンパリング」という秘技があること。こういったいくつもの工夫と洗練された技術によって生み出される、複雑な味と香りの階層を一つ一つ丁寧に見下ろしながら、ミックスの極意の底を垣間見れたあの瞬間は、今年一番の幸せな時間でした。現在もシェフに教わったレシピを元に再現に奮闘中です。生きてて良かった、と食べて思ったカレーを僕も誰かにいつか届けてみたいです。
次に、時間的な余裕をなるべく持って生活の中に余白を作ること。そしてその余白にイライラしないこと。KIACで僕がいくらか生み出せた芸術の片鱗は、余裕と忍耐の土壌でメンバーと過ごせていたからこそだと思います。
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』オープンリハーサル photo by 髙橋遥
最後に、やはりメンバーとの関わり方を通して、今も人との関わり方についてよく考えています。複数の人間が集まった時に、簡単に協働することができるそれぞれのバックグランド、人間性、芸術性の部分と、自然と少し距離をとってしまうそれらがあり、僕はこれから、特に冬の本公演のクリエーションでは、その距離をとってしまうということをもっと良く見つめて、簡単ではない協働にこそチャレンジしたいと思っています。
クリエイションチームのメンバー、KIACの方々、レジデンスと成果発表を気にかけてくださった人々に感謝の気持ちを伝えたいのですが、今度直接言います。以上です。
大体毎年、5月くらいからサンダルを履き始めて、11月くらいまではサンダルのまま過ごしていたくて、一年の半年くらいは靴下を履かなくても良いという足元事情が僕にはあります。去年は少し安物のサンダルを買って一年でダメにしてしまったので、今年はせっかく城崎に行くし、現地で草履か下駄を買おうと決めていました。
KIACでの滞在を共に過ごしたおnewの下駄は、今も京都で良い音を鳴らしています。今日もその下駄を履いて、京都芸術センターに行ってきました。スペースノットブランクと松原俊太郎さんの新作である『ダンスダンスレボリューションズ』のオープンリハーサルをみにいきました。僕たちのクリエーションとは別物に見えましたが、不思議とKIACでの創作の空間、時間、空気が脳裏に香りました。それでこの文章を書ける気になって書き始めているところです。
下駄だけじゃなくて、KIACから持って帰って、今もぶら下げて過ごしているものごとはいくつもあります。
まず、カレー。スリランカカレーと日本食を専門とするシェフが毎日の食事を準備してくれていました。僕はもともとスパイスカレーが好きで、今回食べたスリランカカレーとは奇跡の出会いでした。僕がこれまで手探りで身につけてきたスパイスカレー作りの概念を泣けるほど壊されました。これまではカレー作り=玉ねぎを炒めること、というイメージがあり、どれだけ玉ねぎを炒めつけ、水分を飛ばし、茶色くするかということに躍起になっていました。そんな僕に、スリランカカレーは優しさを教えてくれました。ココナッツオイルの風味を土台に、スパイス抜きでも美味しい煮込み料理を作るという心持ちを忘れないこと。玉ねぎを油で炒めつける必要も、野菜から出る水分だけで作ることにこだわる必要もないということ。スリランカカレーの基本となるミックススパイス、「トゥナパハ」の構成と、さらにそれらのスパイスを煎ることによって香りを強められること。そのスパイスをミルで、パウダーに、あるいはニンニクなどと混ぜたペーストにする使い方や、「後からテンパリング」という秘技があること。こういったいくつもの工夫と洗練された技術によって生み出される、複雑な味と香りの階層を一つ一つ丁寧に見下ろしながら、ミックスの極意の底を垣間見れたあの瞬間は、今年一番の幸せな時間でした。現在もシェフに教わったレシピを元に再現に奮闘中です。生きてて良かった、と食べて思ったカレーを僕も誰かにいつか届けてみたいです。
次に、時間的な余裕をなるべく持って生活の中に余白を作ること。そしてその余白にイライラしないこと。KIACで僕がいくらか生み出せた芸術の片鱗は、余裕と忍耐の土壌でメンバーと過ごせていたからこそだと思います。
最後に、やはりメンバーとの関わり方を通して、今も人との関わり方についてよく考えています。複数の人間が集まった時に、簡単に協働することができるそれぞれのバックグランド、人間性、芸術性の部分と、自然と少し距離をとってしまうそれらがあり、僕はこれから、特に冬の本公演のクリエーションでは、その距離をとってしまうということをもっと良く見つめて、簡単ではない協働にこそチャレンジしたいと思っています。
クリエイションチームのメンバー、KIACの方々、レジデンスと成果発表を気にかけてくださった人々に感謝の気持ちを伝えたいのですが、今度直接言います。以上です。
野間共喜
京都在住。舞台音響、パフォーマー。he/him。ビビリ。友達募集中。
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小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク『言葉とシェイクスピアの鳥』ウェブサイト