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フレデリック・フェリシアーノ/Le Friiix Club『Birdy』
アーティスト・トーク

2024.1.4

2023年6月、フランス・ボルドーを拠点に活動するフレデリック・フェリシアーノ/Le Friiix Clubによる『Birdy』 の滞在制作終盤にアーティスト・トークを実施しました。日伊通訳で行われたトークの様子をお届けします。

通訳・文字起こし:並河咲耶
編集:城崎国際アートセンター(KIAC)
フレデリック・フェリシアーノ(以下FF):皆さん、こんばんは。2013年にフランスのボルドーでカンパニーを設立し、運営しています。その私のキャリアの中から、フランスでの人形を使ったアート活動に関することと、このジャンルの舞台芸術に対するフランスの文化システムがどのように機能しているかということについて、皆さんにお話ししたいと思います。ヨーロッパでも特殊なフランスの舞台芸術全般のシステムについても興味のある方がいらっしゃると思いますので、それについてもお話ししたいと思います。
では、始めましょう。

Friiix Clubについて


FF:2013年に作ったカンパニーでFriiix Clubという名前を付けました。まず、クラブ、というのが大事です。フランスではよく「カンパニー」と言いますが、サッカークラブや、ディスコクラブのように経済活動や政治活動とは無縁です。この呼び名は、オープン・フォームと呼び、私の創作の仕方やイメージのように開かれた活動でありたいと選んだものです。
Friiixの中に3つある「i」の文字は、ちょっとした言葉遊びで、モンスターのような意味もあるFrix(ギリシャ神話のPhrixus?)の中に、つい先日亡くなった、イタリアの政治家ベルルスコーニが唱えていた、Impresa、Informatica、Inglese(ビジネス、情報、英語)の頭文字である3つの「i」を入れました。彼はイタリアの文化をこの3つの視点から変えていこうとしていたわけです。

並河:でもベルルスコーニを支持していたわけではないですよね?

FF:もちろん違いますよ!だからこそ皮肉も含めて、この三つの「i」を入れたんです。イタリアの若者たちをこの3つの概念によるモンスターにしていく彼の考え方に対して。

Friiix Clubはアソシエーションという形式の法人で、つまり参加型(メンバーになるという意味)です。フランスでは、法人格がないと舞台芸術界で働くことができません。1901年のアソシエーション法*に則っています。
*アソシエーション法とは「2名以上の者が、利益の分配目的以外の目的のために、自分たちの知識や活動を恒常的に共有するために結ぶ合意」のこと。アソシエーションとは、法の制定に基づいて作られた非営利市民団体を指す。
これは非常に重要なことで、アーティストはこの組織の社長やトップの役職につくことはできません。つまり、私の代わりの誰かが、私の作品を管理してくれるということです。アメリカのように、アーティストが会社組織をつくるのとは異なるシステムです。ここが面白いところで、現在私の法人は非常に運営がうまくいっていると思いますが、まるで一般の中小企業のようです。この会社の運営に関しては、参加している会員皆で行っていて、トップダウンのピラミッド式ではありません。このような形で、人形劇を通してビジネスを行っており、常に新しい会社のあり方を希求しています。
そして、フランスの地方は地域圏*で区分されています。文化省は、各地域圏にDRAC(Direction régionale des affaires culturelles)と呼ばれる地方支部を置いています。私がいるヌーヴェル=アキテーヌ地方も新作創作の支援と法人運営に対する支援を行っています。これは法人で働く社員の給料を支払うための大切な仕組みです。
*フランスの地域圏とは、フランスにおける最も大きい地方行政区画のこと。州に相当する。
それから、フランスの特殊なシステムとして「Intermittents du spectacle」があります。年間507時間舞台芸術の仕事をすると、毎月お給料が保証されるという仕組みです。なので、フランスはおすすめですよ!

並河:こちらを見ていただくとわかるんですけれども、彼はFriiix Clubの芸術監督で、2021年からTiphaineさんという方が制作をされています。それから人形遣いのPierrickさん、経理や総務を担当するApollineさんが参加しています。

FF:芸術作品を創るためには、事務職が不可欠です。総務や運営管理があるからこそ、フェスティバルや劇場のディレクターに営業をして、作品をツアーに出すことができます。そうでなければ、地元で活動をするだけです。ツアーをするための制作の仕事もクリエイティビティを必要とする芸術活動なのです。ただ、アートを学ぶ学校という場では、このような組織運営について教えてくれることはほとんどありません。でも、活動を続けていくには大切なことです。

Le Friiix Clubのメンバー


FF:ここからは、Friiix Clubの作品を紹介します。

Guignol ou la vie des pov'gants』(2013年)は、手袋型の人形を使う作品です。ギニョールというのは、フランス人にとっては馴染みの深い大衆的な人形ですが、子ども向けと思われがちです。そこで、ポップ・カルチャーとしてフランスで受け入れられているこの人形を扱ってみたいと考えました。後で気付きましたが、ポップではありますが、過去のものでもあります。
ナポリの伝統的な人形劇グアラテッレのように、80平方センチメートルの箱の上部が舞台になっています。通常と異なるのは、箱の中が丸見えということです。4体の人形と、人形遣い、その前に透ける幕を吊りました。人形遣いがなぜ下にいるのか?人形が繰り広げる舞台と、人形遣いの動きという2つの作品を並行して観客は見ることになります。人形遣いはグルグルグルグルその中を回り続け、だんだんトランス状態に入っていき、顔とキャラクターから人形のエゴも浮かび上がってきます。あらゆる「私」が現れるのです。この作品でカンパニーの知名度が上がり、多くの共同制作のパートナーが参加した『Micky Mouse Project』(2018年)という大人向けの大作の実現が可能となりました。

『Guignol ou la vie des pov'gants』(2013年)


『Micky Mouse Project』は、2010年に実際に起きた事件を扱っています。インドにいた友人がムンバイで起きたテロで亡くなったことをきっかけに、このテロについて調べることにしました。すると、パキスタンとアメリカ両方の国で諜報機関のスパイとして活動していた人物がいたことが分かりました。作品に対する反響は大きく、様々な賞も受賞しました。この作品は真実に忠実に制作したのですが、作品を観た観客からは「あのキャラクターはなんでこうしなかったんだろう?」「どうしてこうならなかったんだろう?」という感想が多かったのです。真実に忠実かどうかは観客にとっては重要ではないのかもしれないと感じました。それよりも望まれるのは、感情が揺さぶられるかどうか、ということなのだと。これは私にとって作品づくりにおける指針となりました。
この創作は死や怪物のような人物たちをテーマに扱っていたので、少し疲れてしまい、もう少し軽やかなものを作ろうと思って出来たのが『Mano Dino』(2019)です。

『Mano Dino』(2019年) ©Giorgio Pupella


FF:この作品がフランスで初めて人気大爆発したと言えます。今シーズンは350回ほど上演を予定しています。創作に取り組む際に、言葉は使わないで、登場人物は「手」にしようと決めていました。観客は手を別のものと見立てて観てくれるから。冒頭でオープン・フォームと言ったのはこういうことです。観客自身が、見ているものを定義する。小さな彼らの想像力を刺激することで、作品が完成するのです。

並河:Manoがイタリア語で「手」、Dinoが「恐竜」を意味していて、小さな恐竜が動いているように見えます。この手が他の生き物になったりするんですよね。

FF:(実演しながら)このように、色々なものに見立てることが出来ます。

並河:小さい机の上に芝が敷いてあって、手だけに照明が当たっています。観客からは彼の顔が見えない状況で、手だけが動いています。

FF:手が動いているだけで、動物に見えたりするわけです。でも、動物に見せるためには、人形遣いとしての準備や心づもりが必要です。そう見えるように手の全てに注力しなくてはいけません。例えば、文楽では全く顔の見えない黒衣さんがいますよね。私も黒い布をかぶって観客から見えないようになっていますが、実は私からも舞台が見えていないんです。なので、常に緊張状態です。学生さんたちから「なんでわざわざそんなことをするんだ」と聞かれますが、手だけにエネルギーを集中させたいからです。テーブルの下に、色々な小道具や手袋などがありますが、これも指の先でとるように気をつけています。物が取れればいいわけではないんです。それでは雑すぎます。
ピーター・ブルックが言っていたことを思い出します。「所作の美しさではなくて、所作の質、量、そして繊細さ。」

2021年には同じ手法の『T'ES QUI TOI, DIS ?』を制作しました。黒い空間の中で行う作品は重たくなりがちなのですが、軽やかな作品になったと思います。この作品でフランスの世界人形劇フェスティバルにも招聘されています。

『T'ES QUI TOI,DIS?』(2021年)


並河:これはジェンダーをテーマに扱っているんですよね?

FF:そう、ジェンダーという社会問題がどうして生まれるのか、男性になっていく、女性になっていく過程を取り上げています。でも言葉を使わない、ビジュアル・ポエトリー(詩的なイメージ)ですので、乳幼児から大人まで、あらゆる世代に観てもらえるものです。来年はアフリカのセネガル、それから上海に行きます。言葉を使わない作品を創ったことで、海外への道が開き始めました。どちらの作品も25分程度のものなのですが、問題は上演時間を長くしてほしいと言われていることです。作品に手を入れて長くするか、2つの短い作品を続けて上演するか、の二つの選択肢を迫られています。25分の作品を上演する場合、1日に4回、多い時は5回上演することもあります。

 

新作『Birdy』について


FF:『Birdy』を構想するとき、飛行機の操縦方法を学んだこともないのに、飛行機を盗み続けたアメリカ人の少年、コルトン・ハリス・ムーアのことを知りました。捕まるか捕まらないか、という状況が2年ほど続き、彼はある種のスターのような存在でした。飛行機から出て逃げる時に裸足の足跡がついていることで有名でした。フランス人の女性小説家が彼のことについて書いた本があり、それを読んで、これは凄い、と思ったんです。アメリカでは色々な媒体が彼について取り上げていることを知りました。彼は本当に何も持っていなかったんです。それどころか、虐待を受けていたり、とにかく逃げたいと、それだけを強く思っていました。ただ逃げるために飛行機を奪い、飛び立ったのです。操縦の仕方も知らないのに、一体どうやって?
この話は一見物凄いアクション・アドベンチャーのようにも見えるのですが、実は社会で起こり得る悲劇なんです。そして、頑張って逃げ続けるものの成功せず、それでもめげずに挑戦し続ける姿は、素晴らしい才能があるにも関わらず報われない、漫画の主人公に重なるものがあると感じました。『AKIRA』など、大人の社会に裏切られたと感じる若者が主人公になっている漫画が多くありますよね。こうして、人形劇で漫画をやろう!と思ったんです。
まず、白黒を使うとか、人形の顔は漫画的で顔や頭が大きい、といった特徴を出しました。特に『モンスター』や『デスノート』が念頭にありました。漫画を使うと言っても、漫画の絵そのものを舞台にのせると考えているわけではありません。そうではなく、アニメや漫画が持つ独特の勢いやリズムなど、漫画という表現方法の強みがどこから来るのかを探る試みでもあります。
舞台美術の机は二つに分かれていて、バラすとその中に照明や道具を全て収納できます。机の上にはレールがついているので、人形をシューッと滑らせて動かすことができるんです。こちらの枠は宙を舞ったり組み合わせたりすることで、車や街の背景になることもあれば、漫画のコマのようになったり、登場人物が会話をする家になったりします。このように、テキストがなくても、シーンの背景の動きなどで起こっていることが理解できます。
音楽も漫画を意識して作っています。劇中では、視覚描写と音楽だけという瞬間が多くあります。ティーン向けの作品なので、リズムやテンポはあまりゆっくりではいけません。シーン描写も、テキストも、たたみかけるようなリズムで進行するので、音楽といいバランスだと感じています。様々な環境音が入ることで、イメージが立ち上がってくるので、非常に重要な仕事です。

『Birdy』©Pierre Planchenault


人形遣いは、枠を組み合わせることで、剣にしたり、車にしたり、飛行機にしたりと、様々な形に変化させます。枠を組み合わせている間、観客の脳みそは映画を観ているときのように、視覚から得る情報から変化を想像する、という風にスイッチしているはずです。例えば、登場人物が、枠の前に立っているとして、枠を後ろに移動させていけば、まるで登場人物が前に進んでいるように感じられます。これは映画やテレビで使われている手法で、私たちはこうした錯覚に慣れているわけです。また、人形の背の高さについても考えました。あまり背の高い人形だと素早い人形操作が難しいのです。かといって小さくしすぎると、300人収容の会場では見えづらくなってしまう。少しずつ改良を加えながら現在の最終形に近づいてきました。それから、フランスでは磁石をよく使います。磁石があれば、かなり人形操作がしやすくなります。人形の体の中、足、手、必要とあればどこにでも付けますよ。こういう人形は、一般的には1体の人形を2〜3人で操作するんですが、ここでは1人でやっています。45cmくらいの高さであればだいぶ素早く動かせることが分かり、その高さの人形を作ることで落ち着きました。
また、人形を操る3人は単なる人形遣いではなく、俳優でもあります。彼らの存在は観客に見えていますから、どんな衣装を着ているかも考える必要がありました。帽子は目深にかぶるようなタイプのもので、状況によっては、操っているものが見えていないこともあります。もしよく見たいと思ったら、首を後ろに反らないといけません。そうすると違う体勢になって、全く違う状況を創ることができます。焦点をずらす、映画のような視点です。照明も同様に、光の中に入ったり出たりすることで、見えたり見えなくなったりします。一瞬のうちに転換したように見せられるわけです。必ずしも一般的だと思われている方法を使う必要はありません。観客には彼らが見えていないけれど、実は彼らは全て見ている、とか。そのように彼らの俳優としての存在についても、考えを巡らせました。
ほかにも仕掛けや細工、照明デザイン、ストーリーボードやイラスト、人形制作、音楽家、ドラマトゥルク、テクニカルとしてツアーに回ってくれるスタッフなど、多くのメンバーが参加してくれています。

『Birdy』はリサーチ段階から様々な場所でレジデンスを重ねながら創作しているのですが、フランスでは、1〜2週間のレジデンスの最後に試演会を行うことができる、非常に良いシステムがあります。試演会には、会場を貸してくれた施設のディレクターだけでなく近隣の劇場のディレクターも招待します。作品が完成する前に観てもらうことが出来るので、次のシーズンでの上演の可能性が高まります。今回のクレジットの中で特筆すべきはEspace Jélioteです。フランスには国立劇場(Scènes nationales)と呼ばれる劇場があり、彼らは新作の製作にかける予算も持っています。この劇場は、人形劇に特化した国立劇場です。

並河:人形劇に特化していますが、対象は小さな子供たちから大人までということですよね?

FF:そうです。4年前に整備された劇場法のおかげです。Espace Jélioteは私たちの拠点の地域にある劇場なので、レジデント・カンパニーとして毎年稽古することが可能なんです。

最後に、『Birdy』は漫画とマリオネットを融合した「マンガネット」という手法で作っていて、2023年9月に初演を迎えます。次はこの手法でシェイクスピアに取り組みたいと思っていますよ!

アーティスト・トーク©︎igaki photo studio

フレデリック・フェリシアーノ
18歳のとき、パリで人形劇の探究を開始し、縫製と彫刻の技術を磨くためにイタリアへ渡る。 その後、フランスを拠点に自身のカンパニー、Le Friiix Clubを設立。さまざまな人形操作法を試したのち、素手を人形に見立てる手法で作品を創作するようになる。 「創作を重ねるにつれ、作った物や人形が剥き出しの状態であればあるほど、その真髄を表し、動きが生み出す詩情や、テキストが持つ想像を掻き立てる力を見せられるようになっていった。人形劇という芸術は、全体のうちの一部分を見せるということと、人間の本質である意味を見出す、という二点の上に成立している。私の作品を観る観客は、知らぬ間に作品の一部を頭の中で補完している。つまり、想像する芸術といえるのかもしれない。」とフレデリックは語っている。
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並河咲耶
イタリア在住。パートナーであるダリオ・モレッティの主宰する子どものための舞台を創るテアトロ・インプロヴィーゾの作品のコーディネート、パフォーマーとしての出演を生業とする傍ら、近年は海外アーティストがよりスムーズかつクリエイティブに日本の文化や観客と出会う機会を創出することにも高い関心を持つ。現場通訳(日伊英)や翻訳なども行う。 中学生になった娘との旅行が最近の楽しみ。