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「ないものの話をしながら土をこねる」成果発表 撮影:トモカネアヤカ

吉田萌『ヴァカンス』上演に向けたリサーチプロジェクト内
「ないものの話をしながら土をこねる」ふりかえり会 前編

2024.9.5

2024年4月20日(土)~5月20日(月)の一ヶ月、KIACで滞在制作を行った、「吉田萌『ヴァカンス』上演に向けたリサーチプロジェクト」
4月28日〜5月5日にかけてはメンバーと合流し、「ないものの話をしながら土をこねる」というワークショップと成果発表を行いました。

8月28日にオンラインにて、『ヴァカンス』メンバーから吉田萌・石田ミヲ・久世直樹・増田祥基、KIACから與田千菜美、ワークショップ参加者から髙橋遥さんと丸山るかさんの2名をお招きし、「ないものの話をしながら土をこねる」のふりかえり会を行いました。

前編・後編に渡って、そのアーカイブを公開します。
吉田:今日は集まっていただき、ありがとうございます。ちょっと日が経ってしまったんですが、KIACレジデンスでのワークショップから成果発表までのことをアーカイブできたらということをずっと考えていて。ワークショップであったりレジデンスでのことから戯曲を書いて稽古をして、もうだいぶ稽古も終盤という段階になってきた中で、このタイミングでもう一度皆さんとお話して、今に至るプロセスを振り返ることができたらと思い、今回お集まりいただきました。

吉田:私は夏に豊岡に遊びに行って、與田さんや髙橋さんに会ったりしたけど、皆さんは本当に久しぶりですよね。ゴールデンウィークぶりの再会ですね。

一同:そうですね。

吉田:與田さんはKIACのコーディネーターとして滞在を担当してくださいました。丸山さんはワークショップと成果発表を観てくれて。髙橋さんはワークショップ、野焼き、公開稽古、成果発表とフルで参加してくれたということで。成果発表を観たときの感覚もそれぞれに異なるのではないかと思う方々を、今回お招きしました。

ワークショップ「ないものの話をしながら土をこねる」

吉田:與田さんは1日目で、丸山さんと髙橋さんが2日目の参加ですよね。1日目の與田さんから、どうでしたか。



與田:自分の場合は、話す順番が1番最後だったので、他の人たちが自分の話をして、それを3人組の中の1人が語りなおしてっていうのをすべて見る中で、自分が何のエピソードを話すか考える時間がすごくたくさんあって。その中で、最初話そうって思ってた話が実はあったんですけど、10分間話が持つかなってこととかまで考えちゃって。より自分のこととして最後までテンションを保って語れそうな、まだ鉄板エピソードまでにはなってなかったんですけど、かなり自分ごととして最後まで語れるものをって考えたときに、学生時代の片思いのエピソードが出てきたって感じです。だから話すことにすごく夢中になって、土をこねるとき、どういうものをこねようとかっていうことは全く意識が向けられなくて。自分の場合は話してたときの手の癖とか、自分を落ち着かせるための動きが全部、土に反映してたのかなとか。

吉田:増田さんと同じグループでしたよね。

増田:そうですね、僕と與田さんと久世さんが同じグループで。

吉田:ご自身の話をしているときと、増田さんの話を語りなおすときはまた違いましたか。

與田:語りなおすときは本当に緊張しました(笑)

吉田:それはそれで、話すことが優位で進んでいったという感じですかね。

與田:はい。

吉田:逆に丸山さんは、土をこねること優位に見えましたが、どうでしたか。



丸山:そもそも色々分析してみると、私は相手がいるときに相手に向かってパフォーマンスしちゃうみたいなところがあるんですけど、土があることでちゃんと本当の話ができるみたいな。自分のことを語れる感覚があったなということを今思い出しました。小さい頃から表現することが好きで、習い事をしてたこともあって、相手がどう見てるかなみたいな、どう受け入れてもらえるかに無意識に注目してるみたいなことが、他の作品をつくっているときにわかったんですけど。解決しなくてもいいのかもしれないけど、それをどう自分で落ち着けるかみたいなことを考えるきっかけを与えてくれるワークショップでした。

吉田:本当に土に入っていくように話していましたよね。

丸山:土は手馴染み良いじゃないですか。だから自分の思想に潜っていくみたいな。同じグループだった久世さんもすごい柔らかく訊いてくださっているので、仏みたいな感じで。仏と土があったから。

一同:(笑)

吉田:でも確かに普段生活していて、自分が話しているのを目の前で本当にちゃんと聞いてくれる人がいる状況ってなかなかなかったりするから、そういった意味で、真正面で聞いてくれている存在が仏のように思えてくるっていうのは確かにそうかもしれない。今回ワークショップに参加してくださった皆さんが、本当に真摯に話を聞いてくれる人たちで、そのような場であったということかもしれないですね。

吉田:石田さんは、丸山さんの土をこねる手つきにメロメロになってましたね。

石田:いやー。もう、うん、そう。ずーっと見てたかった、あれ。メロメロだった。だーいすき。すみません、稚拙な表現で(笑)意図は受け取ってもらって、私は舞台上で頑張ります。

吉田:髙橋さんは2日目の最後のグループで、状況的には與田さんと近かったですね。



髙橋:そうですね。そもそも自分の話をするときに、ストーリーとして話せないっていう若干のコンプレックスがあって。ワークショップの時に喋った話も、おばあちゃん家に犬がいて、メダカとかいてみたいな。風景描写的な、瞬間的なワンカットの連続みたいな話しかできなくて。終わった時は最悪って一瞬なったんですけど、でも一応、無意識的にも土があったから、そこに。物体として土は残ってたから。記憶はあるのに伝えきれていない、上手く言えない悲しみがあっても、物体としては残ってることに安心できた。記憶を引っ張り出した痕跡は残ってるっていう安心感があったことが感覚として残っています。

吉田:自分の中で上手く話せなかったと思った話を、目の前の人によって語りなおされたときには、どんな感覚でしたか。

髙橋:多分聞いてる側って、何とか話を覚えるために、筋道というか一本の糸で私の欠片を繋いでくれるから、それが合っているか合っていないかは置いておいて、とりあえず一本糸を通してくれる感覚があって。真偽は置いておいて、ちゃんと一本のお話になったっていう、ちゃんと欠片が欠片のままどこかに消えていかなくて良かった。

吉田:髙橋さんのペアだった方の語りなおす前のインターバルの過ごし方が独特だったからよく覚えていて。スタジオから何階建てかの建物が見えるんだけど、話の組み立てを3ブロックくらいに分けて、1ブロック目を覚える時は1階部分を見ながら、2ブロック目を覚えるときは2階部分を見ながらみたいなことをしていて。

髙橋:そんなことしてたんだ。

吉田:組み立てを多分、視覚情報から捉えようとしていて。

石田:いいなと思った。

吉田:窓外見ながらね、覚えてらっしゃって。

髙橋:確かに、どのタイミングだったかは忘れたんですけど、相手が自分の話を聞き取ったメモを見せてもらって。

吉田:公開稽古の時かな。

髙橋:確かに3ブロックくらいに分けて書いてたなっていうことは思い出しました、今。

吉田:メモの取り方も人によって、図みたいに枝分かれさせて書く人もいればブロックで書く人もいるし、バーッと文章で書く人もいれば、絵を書く人もいて。

吉田:髙橋さんのひとつのストーリーとして話せないというのは、私もそうで。このワークを何度も繰り返しているけど、自分がやるとき全然ストーリーにできないので断片で話している。1日目は私も参加して、祖父母の家の話をしたんですけど。おじいちゃんが囲碁の盤を椅子の裏に付けられるように改造したみたいな話で終わってしまった気がする。なんの締めにもなっていない。今回は土をこねるっていうことがあるから、徐々に思い出していくような、情景を断片的に捉えていくようなことも、ひとつのやり方な気がしています。喋り終わった後はもっと言えたことがあるんじゃないかと思う時もあるけど。終わってからもどんどん思い出していけるみたいなこととか、無意識に話されたことで追って思い出していくこととかもあるから。髙橋さんがワークショップ終わった後に、話してくれた犬の写真を発掘してくれたのとか、嬉しかった。

吉田:あと、土のこねられたオブジェクトが「手のアーカイブですよね」「話された時間のアーカイブですよね」みたいな話を髙橋さんとして、そのことがすごく印象に残ってその後のリサーチに続いていきました。

焼成する

撮影:蛭田絵里香


吉田:そのオブジェクトたちを野焼きして。焼いてくれた髙橋温大(滞在メンバー)が、温度変化に耐えられず爆発したものの欠片から、オブジェクトとそうじゃないものを分けるみたいな作業をしていて、そのことが印象的だったと話してくれたのも覚えています。

髙橋:最後雨が降ってきて、火がもう完全に消えて、砂と土器が爆発した欠片がグチャッとなったやつから、温大さんがずっと選んでいて。どういう基準で選び取ってるんだろうみたいな。温大さんの目には一体何が映ってるんだろうってすごい気になった。

撮影:髙橋遥


吉田:手や話された時間のアーカイブみたいなものだった、こねられたものっていうのが火の中に入れられて、爆発するかもしれなくて、実際爆発して。アーカイブだったはずものもちゃんと残せるかわからないものになる。かたちが変わってしまうかもしれないんだけど、また新しい形になって目の前に現れたりしないかなっていうことを考えながら、私は野焼きをやってましたね。このワークショップを思いついたのも、野焼きの経験があったからで。それはもう完全に遊びとしてやって、自分が一生懸命こねたものが、その時は何の知識もなくやったから本当にもう木っ端微塵になって。その時も爆発したものからどうにか欠片を拾い集めて、もちろん悲しかったんだけど。今回ないものの話をしようと思った時に、さっき髙橋さんが言ってくれたように、拠り所になるような「あるもの」が残って、それが火に入れられることでまた存在が揺らがされるんだけど、物質としては固まって。ということを見たかった。

撮影:蛭田絵里香


後編につづく

文字起こし:吉田萌



石田ミヲ(いしだみを)
俳優、ダンサー。俳優としてスペースノットブランク、山本ジャスティン伊等、マレビトの会、小泉明朗、福井裕孝等の作品に参加。近年出演作は『Museum ll Ridden』インドネシアダンスフェスティバル(ジャカルタ)、アジアディスカバリーアジアミーティング(台北)等にダンサーとして参加。
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久世直樹(くせなおき)
和歌山県生まれ。かつてこどものころ、テーマパークで遊んでいるときに、『ウルトラマン』の撮影に誘われて、出演して台詞をしゃべることを教えてもらった。今年の参加作品は、『東京トワイライト-強盗団と新しい家-』(作・演出:松田正隆)や“4 grounds” Vol.3(土屋光パート)など
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高橋温大(たかはしはるた)
茨城県生まれ。現代美術家として活動しつつ陶芸家としても活動。2024年にスタートしたセラミッククラブ・ECC(enjoy ceramic club)のファウンダー。
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増田祥基(ますだよしき)
三枚組絵シリーズ所属。大学で舞台芸術について学び、在学中から演劇活動を始める。主に制作者・俳優として活動。
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吉田萌(よしだもえ)
1999年、福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。作・演出に『壁あるいは石、平たいメディウム』(2020/2024)、『スティルライフ』(2022)がある。俳優としては三枚組絵シリーズ、関田育子、マレビトの会等に参加。今年の出演作はNanori『Nanori1』、バストリオ『新しい野良犬/ニューストリートドッグ』、マレビトの会『広島を上演する』内「しるしのない窓へ」(監督:三間旭浩)。
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2024年9月6日〜8日に東京公演、9月20日〜23日に豊岡公演を行います。
吉田萌『ヴァカンス』ウェブサイト