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「ないものの話をしながら土をこねる」成果発表 撮影:トモカネアヤカ

吉田萌『ヴァカンス』上演に向けたリサーチプロジェクト内
「ないものの話をしながら土をこねる」ふりかえり会 後編

2024.9.5

2024年4月20日(土)~5月20日(月)の一ヶ月、KIACで滞在制作を行った、「吉田萌『ヴァカンス』上演に向けたリサーチプロジェクト」
4月28日〜5月5日にかけてはメンバーと合流し、「ないものの話をしながら土をこねる」というワークショップと成果発表を行いました。

8月28日にオンラインにて、『ヴァカンス』メンバーから吉田萌・石田ミヲ・久世直樹・増田祥基、KIACから與田千菜美、ワークショップ参加者から髙橋遥さんと丸山るかさんの2名をお招きし、「ないものの話をしながら土をこねる」のふりかえり会を行いました。

前編・後編に渡って、そのアーカイブを公開します。
前編はこちら

焼成する

撮影:髙橋遥


吉田:野焼き、楽しかったですね。髙橋さんたちはピクニック*¹をしてくれて。

髙橋:ピクニックシートが未だに炭の臭いがしてます。

吉田:(笑)カレーを作ったり、みんなで和やかに野焼きをしましたね。

髙橋:その時に思ったのが、だいぶ人のつくった土覚えてるなって。「あ、これ吉田さん(KIAC)の太巻き」みたいな。これ誰の何々だっていうのを、みんななんかこう、何となくわかってたから。

吉田:そうなんですよ。私もこの間オブジェクトの物撮りをして、久々に広げたんですけど、覚えてますね。全部。

吉田:これ、太巻きね。

(左から)「家族」、「一人暮らし」


與田:すごい覚えてます、これ。

石田:太巻き2個つくったからね。

「かつてあったもの もうないもの。昔?今?」


吉田:これは丸山さんが自分の話をしたときの。指の痕がすごい残ってて。手つきとともに覚えてます。

丸山:ぐにゅってしてました。

「背骨」


吉田:髙橋さんの骨も、物撮りで改めていいなって思いました。

髙橋:色が良い感じですね。

吉田:どうしてもくっつけているものは取れやすくて、野焼きするときにいくつか離れてしまったり、もしかしたら骨の何個かは爆発しちゃったかもしれないけど、バラバラになったのも格好良くて。

吉田:與田さんは割と器系ですよね。

(左から)「ロングトレイル」、「社宅」


與田:そうですね、ドーナッツみたいな。髙橋さんとかは、確かタイトルが「犬の背骨」みたいな。偶然なのか意識してなのかはわからないけど、エピソードとつくったものをタイトルで上手く結んでいる感じがして。タイトルってどうやって付けてたんでしたっけ。

吉田:「話している間に一番想像ができたものを教えてください」というかたちで、それが自動的にオブジェクトの名前になる。でも、目の前に出てきたかたちから連想して、実際のエピソードと結びついた名前をつけた人もいると思う。そういう人もいれば、例えば石田さんが靴の話をしていたときにつくっていた「モアテン」というオブジェクトの恐竜みたいなかたちの印象が強く残って、自分が語りなおす時にも多分そのかたちのことがずっと頭にあったから、全然違うかたちでエピソードの内容とも直接の関連はないのだけど自分のオブジェクトに「恐竜」という名前を付けた人もいました。

(左から)「モアテン」、「恐竜」


髙橋:私は犬の背骨をつくろうと思ってこねていたわけじゃなくて、終わったら粒々がくっついてたから「背骨かー」って勝手に思ったんですけど。春から夏にかけて大学で批評論の授業を取っていて、シュルレアリスムみたいなことをずっと扱っていて。デカルコマニーとか高速筆記とか、無意識を表出させるみたいな。何も考えずに頭に出てきたワードを1分間書き殴って詩をつくるとか。その授業を受けている時に、「これ、土こねじゃん」と思って。

吉田:土こねっていいな。

石田:ギャルだな。

髙橋:(笑)意識的にこねた人もいるのかもしれないけど、無意識にこねたものが結果的に爆発したり、天候とか温度の関係、火みたいな自然的なものに一旦委ねて、客観視する。無意識がそこで生まれて見つめなおすみたいなのが、まさにそれじゃんと思って、ワークショップでの時間のことをずっと思い出してました。

吉田:ありがとうございます。丸山さんは何かつくりたいものが明確にありましたか。

丸山:いや、つくりたいものはなかったけど、終わった時に「あーこうなったのかー」みたいな残念な気持ちにならないようにしようって思って。

吉田:こねることにある程度モチベーションを持ってたってことか。

丸山:物として残るってなっちゃうと、どうしても残ってもいいものを作ろうって思うんでしょうね。多分。だから、時間がそんなになくてもいいように分解はしなかったり。分解しちゃうと一つにこだわって、片方がおざなりになるみたいなことが当時の私は許せなかったから。今だったら許せる自信があるんですけど、そういうこだわりが当時はありました。

吉田:こだわりを持って土という塊と向き合っていたんですね。反対に細々としたものをつくる人もいるんですよ。ひたすらちぎって、手遊びに近い。私とかは割と塊が多いかな。自分の手の癖がよくわかる、話す時に強く握っている感じがすごい出てる。

(左から)「ゆかこ」、「せなか」


吉田:伸ばすの好きだなって人とか、巻く手つきがいつもある人とか。久世さんとかも一定した手つきがありましたよね。

久世:結構、自分の手癖というか、出てるなと思って。巻くのもそうだし。ホットドッグとか。

吉田:棒状のものが多いのかな。

石田:チャリのハンドル。

(左から)「ホットドック」、「自転車」


吉田:そうそう。包むようにこねてる久世さんの手の印象がすごくある。石田さんはこねるのを楽しんでいたタイプだと思うんですが、どういうモチベーションでしたか。

石田:そうですね。でも丸山さんみたいな狙いは全くなく、思うままに楽しくやっていました。感じたままに遊んでました。

吉田:土と戯れていたら、このかたちに。

石田:そうですね。

吉田:石田さんは造形的なものがたくさんあるんですよね。これは「ギャル」っていうタイトル。裏を爪で引っ掻いていた動きが新しかったのでよく覚えています。

「ギャル」


石田:その動きは覚えてる。懐かしい。

吉田:何回か繰り返している『ヴァカンス』のメンバーは、話すことと手の関係を新しく発見していったりがあったかもしれないですね。私は挑戦しようと思いつつも、結局は手癖が出ていて、無意識のうちに似たかたちが生まれていた。

吉田:増田さんはよく平べったいのをつくっていましたね。

「大阪旅行 西成桜ノ宮谷町4丁目」


増田:正直、僕は造形は全く気にしていなくて。土に手が触れている触感みたいなものはすごい感じてたんですけど、かたちとして何が出来上がるかは何も考えていなくて。さっき丸山さんが話してくれた、いつもは相手に見せるというかパフォーマンスするところを土があるおかげでそこまでいかなかったみたいなことを、僕もちょっと感じていて。半分オープン、セミオープンぐらいな感じになるんですよね。目の前の人に対して話すみたいなことも、完全にその人のために話すっていうよりは、やっぱり土っていう緩衝材があると土をこねることに集中するっていう、半分自分の方にも話のベクトルを向けられるようなものがコミュニュケーションにおいて一個挟まっていることで、話し方としてすごく奇妙な状態になっていたなって。自分の話し方の癖として絶対に整理をして意味伝達を優先して喋るみたいなことをやるんですけど、そこに行き過ぎずに済む。それって相手の存在をすごい意識して話すっていうことなんですけど、そうじゃなくて、一個土みたいなものが挟まることで自分の中に没入するみたいなことがあるので、話す内容も自分のために話すみたいなことが起こったりして。普段意識している話し方の癖から少し離れて話すことができたみたいなことは、やっていて「おー」と思った。

増田:語りなおしのところでも、他人のエピソードを扱う時に整理をして意味伝達を優先して良いのかな?と少し迷って。久世さんとペアだった時に、久世さんの話を自分が覚えやすいように整理をして、それで覚えて話をするのって、久世さんの話の中に出てきた要素を一個ずつ僕の方で勝手に区切って、要素として成立させて、その上でわかりやすいように整理をして話をするっていう、他人のエピソードをそんな自分勝手に扱って良かったのかな?みたいなのをちょっと終わってから思ったりはしましたね。でも、ある程度人の話を語りなおすって、そうせざるを得ないところもある。それをどこまでやって良いのか。自分と他人の間の境界っていうものを思ったりはしました。

吉田:そうなんですよね。普段そうやって他人のことを理解してしているということだし、話し方って本当に人によって違う。すごいシンプルなことですけど。エピソードの交換を用いたワークはこれまでかたちを変えながら何度もやってきていますが、はじめたばかりの時に考えたかったのは、まさにそういった他者との関係における暴力性に直面してみたいということでした。

吉田:久世さんとのペアは私も東京でやったんですけど、久世さんってすごく面白いエピソードトークをしてくれる。久世さん独自の話の繋がり方というか回路があって、その話ぶりの持つ質感はただ話の内容を暗記しようとするだけだと話せない。久世さんが話したかったことが話せていない感じがする。その人が何を追おうとしてその話をしたのかっていうことを想像してみることが、結構大事だったりするのかもしれないですね。どうしても話された内容を取りこぼさずに順序立てて正しく話さなきゃということに追われてしまうかもしれないけど、合っているかはわからなくても質感の部分だったり、追っていく作業を丁寧にやれたら良い気がします。私はそのことに今回はじめて気が付きました。土があったおかげかも。

吉田:髙橋さんの断片も、その断片断片に無意識の中でも思い出していく必然があったのかもしれないし、それらに他者が線を引っ張っていくことで何かができるわけではないけど、髙橋さんがそういうものを思い出していっているんだろうということを私たちも想像していく時間があのワークショップの時間にあったと思います。だから帰った後に、髙橋さんが昔の犬の写真を発掘して見せてくれたことが、すごく嬉しかった。


公開稽古から成果発表へ

吉田:そこから、公開稽古になります。相手に語りなおされた自分のエピソードを文字起こししたものをテキストとして、稽古の時間の中でなるべく覚えて、スタジオで発話してみるという稽古をやりました。文字起こしされ、一度切り離されたテキストをどのように発話していけるのかということで、初回は公開稽古として参加者とともに行いました。

撮影:トモカネアヤカ


吉田:その後も俳優3人は1時間それぞれ台詞覚えしてスタジオに集まって発話するみたいなことをひたすらに繰り返し、その結果が成果発表になりました。ワークショップから成果発表をみた丸山さんはどうでしたか。丸山さんの言葉による久世さんのエピソードを、久世さん自身が再取り込みするっていうことをやっていましたね。

丸山:自分が受けてきたワークショップは、個人の所有物みたいなものが一つのかたちになることってあんまりなかった。私は戯曲とかは書かないし、他人を使って自分の作品を作るみたいなことがあんまりなかったので、自分の発したものがダイレクトに他人を動かしているみたいなのが、「おわ〜」みたいな。「なんだこりゃ〜」みたいな。ちょっとドキドキしちゃうみたいなことがありつつ、でもなんかちょっと「丸山るかって人がいたな」みたいな風にどっかで私が何も知らない時に私の存在を考えてくれる人がいるんだなみたいなのを実感して。すごい自分よがりな感想なんですけど、若者だから。

吉田:(笑)若者だからね、私たち。

丸山:孤独とか感じる時はあるかもしれないけど、こういう風に人は繋がれることがあるんだなということをかたちにしているなと。あと、私って今まで人がいるなってことを、「いるなー」で捉えられなかったんですけど。いたら会いに行っちゃうし。

吉田:実像を掴みにいく。

丸山:俯瞰できないみたいな感じだったんですけど、喋らない人を眺めてみるみたいなことも面白いよねみたいなことを思うきっかけを与えてくれたかもしれないなって思いました。

吉田:丸山さんが語りなおした自分のエピソードを演じるということは、元は自分の話だからこそ、丸山さんの存在をすごく考えることでもありますね。久世さんは、丸山さんが話を覚えるために書いたメモを見返したりしてましたよね。

撮影:トモカネアヤカ


久世:どこを大事に話してくれたのかなということを参考に。どこを大事にしてくれたのかなということを自分が喋る時も大事にしたいと思って、メモはめちゃくちゃ参考になったというか。台詞覚えの時もずっと傍に置いていて。それがあるから喋れることがあるなと思って。だから、成果発表の時に丸山さんが「あ、私の話。私が語りなおしたやつだって途中で思った」って言ってくれたのがすごい印象的で。いない人とかが、どこかでいるかもって、さっき丸山さんが話してくれたように。元は自分の体験だけど、誰かを通して話されたことを、また自分が話しなおすことによって、ちゃんと聞いてくれている人はいるんだなっていうことを実感できたというか。成果発表に立ち会ってもらえたのもすごい良かったなって。

撮影:トモカネアヤカ


吉田:石田さんは試演会の時にどういうチャレンジをしていましたか。

石田:とにかく大事にしてました。でも私はその人のメモとかはあんまり見なかったかな。例えば自分がつくった振付を相手に共有して、ちょっと時間が経った後にその振付を共有した側からまた貰うっていう時に、覚えてるんだけど覚えてない。自分がつくったものなんだけど、ちょっと違うものになってるみたいなその感覚がすごい面白いなと思った。

石田:どういう風に見えましたか?

與田:稽古を時々覗きに行っていたんですけど、石田さんは覚えるということに苦戦されているように見えました。

石田:そうかも。

吉田:自分の体験のはずなんだけど自分が絶対言わない言葉のチョイスみたいなものの違和感を違和感のまま置いて、他人の言葉なんだけどまだ自分が言える部分と絶対的に他人の言葉みたいな部分の間をグラグラして。グラグラしているところを、自分がつくったオブジェクト(「モアテン」)を見ることで保ちながら、そのグラグラを楽しみながらやっているような印象を受けました。

石田:そうですね、思い出した。

吉田:すごい揺れてた、その揺れを楽しんでいたような。

石田:あの時はまだモアテンがないとちょっとできなかった。懐かしい。

吉田:今私たちは訓練を重ね(笑)オブジェクトがなくてもできるように、すべて自分たちの身体の中にもあるんだぞということを信じられるように訓練しているので、最近はモアテンは遠くにいます。

與田:それは「ヴァカンス的身体」を習得しているところということ?

吉田:今、滝汗かきながら訓練してます(笑)

石田:めちゃくちゃ訓練してますよ。

與田:訓練なんだ、面白いですね(笑)

吉田:修行。

石田:吉田萌の稽古結構キツくて、スパルタなんで。

吉田:よう言うわ(笑)

一同:(笑)

吉田:でも本当に、ワークショップでの皆さんのエピソードを断片的にですが戯曲の中に組み込ませてもらっていて、だから今こうやって久しぶりにお会いしていますが、私たちは日々皆さんのエピソードの中をドライブしているから、あんまり久しぶりな感じがしなかったりもして。

石田:でも久しぶりに本物に会えて嬉しかったです。

吉田:本当に。だから、それこそ私たちは仏に会ったような感じ(笑)今、稽古させてもらっているものの本家というか、仏に会って。

石田:神3に会いましたよ。

吉田:身が引き締まる思いです。大事にやっていけたらなと。日々、皆さんのワークショップでの手つきや語りぶりを思い出しながら、それらを私たちで大事にあつかうことができたらなと思っています。

與田:最終的にどのくらい変化してたり、残ってるものがあるのかとか、変わってるものってあるのかとか、すごく楽しみになりました。9月*²。

吉田:野焼きの火のように、また新しい何かに出会いなおすということが、私たちの身体をもってできたら良いですね。



オブジェクト撮影:笠原颯太
文字起こし:吉田萌



*¹ 日々の営みや思考を路上にひらいてみるゆるい集まり。ポータブルかつ他者とパッチワーク可能なメディアとしての「ピクニック」を探求している。本を売る、茶を点てる、クィアウォークリサーチをする等活動は多岐にわたる。記録はXアカウント架空社団法人ピクニック(@picnic_caravan)にて投稿中。

*² 2024年9月6日〜8日に東京公演、9月20日〜23日に豊岡公演を行います。
吉田萌『ヴァカンス』ウェブサイト


石田ミヲ(いしだみを)
俳優、ダンサー。俳優としてスペースノットブランク、山本ジャスティン伊等、マレビトの会、小泉明朗、福井裕孝等の作品に参加。近年出演作は『Museum ll Ridden』インドネシアダンスフェスティバル(ジャカルタ)、アジアディスカバリーアジアミーティング(台北)等にダンサーとして参加。
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久世直樹(くせなおき)
和歌山県生まれ。かつてこどものころ、テーマパークで遊んでいるときに、『ウルトラマン』の撮影に誘われて、出演して台詞をしゃべることを教えてもらった。今年の参加作品は、『東京トワイライト-強盗団と新しい家-』(作・演出:松田正隆)や“4 grounds” Vol.3(土屋光パート)など
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高橋温大(たかはしはるた)
茨城県生まれ。現代美術家として活動しつつ陶芸家としても活動。2024年にスタートしたセラミッククラブ・ECC(enjoy ceramic club)のファウンダー。
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増田祥基(ますだよしき)
三枚組絵シリーズ所属。大学で舞台芸術について学び、在学中から演劇活動を始める。主に制作者・俳優として活動。
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吉田萌(よしだもえ)
1999年、福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。作・演出に『壁あるいは石、平たいメディウム』(2020/2024)、『スティルライフ』(2022)がある。俳優としては三枚組絵シリーズ、関田育子、マレビトの会等に参加。今年の出演作はNanori『Nanori1』、バストリオ『新しい野良犬/ニューストリートドッグ』、マレビトの会『広島を上演する』内「しるしのない窓へ」(監督:三間旭浩)。