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2018年9月10日

ツアーパフォーマンス『Kawalala-rhapsody』参加アーティスト・インタビュー

増田美佳(ダンサー・文筆家・詩人)×美藤 圭(彫刻家)
8月に実施したKIAC主催事業ツアーパフォーマンス『Kawalala-rhapsody』にアーティストとして参加したダンサー・文筆家・詩人の増田美佳さんと彫刻家の美藤圭さんにお話をうかがいました。
増田さんが嵯峨実果子のゴーストライターとして執筆した小説『Kawalala-rhapsody』をもとに美藤さんをはじめとする参加アーティストが作品を創作。お二人には、豊岡のまちを舞台に実施したプロジェクトの裏話やコラボレーションによる作品創作についてお話を聞いています。
(取材:豊岡市役所秘書広報課 北村直之)


-まず、このプロジェクトに参加したきっかけを教えてください
増田
:KIACの吉田さんから「豊岡のまちでツアーパフォーマンスの作品をやってみないか」というお話をいただいたのがきっかけです。京都府舞鶴市で似たようなパッケージで行ったプロジェクト(赤れんが配水池特別展覧会「パラピリオの森」2016年)があって、それを見てくださって声が掛かりました。1年半前の2017年2月に最初のリサーチに来たという流れでした。豊岡というまちのことは、名前は知っていましたが、知識はほとんどありませんでした。産業のこともコウノトリのことも全く知らなかった。どういうところなのか分からない状態で初めて訪れました。
美藤:リサーチで皆さんが回っていたときに、豊岡の作家の方にも参加してもらえないかなという話が出て、吉田さんの紹介で今年3月に映像作家の山田晋平さんと文化人類学者の豊平豪さんと増田さんが私の工房に来られて、声掛けしてもらいました。豊岡の外から来られて、こういったプロジェクトをしたいというお話を聞いたとき、自分だったら何ができるかをお話しました。作品の構想として豊岡の川をテーマにすることはすでに決まっていました。僕は雲を創作のテーマにしていたので、川の水が蒸発して雲になって、それがまちの中を流れるイメージが共有できるのでは、と思いました。


-川がリサーチの中心だったのですね
増田
:はい。リサーチの際、滞在している城崎から豊岡まで円山川沿いを車で走っていて、すごくきれいだなと思っていました。でも市内に入ると堤防などで急に川が見えなくなるんです。それで治水工事があったことや廃川(=人工的に廃止された河川)というものがまちの中にあって、川と付き合ってきた長い歴史があるというお話を聞いて、さらに関心を持ちました。川をベースにテキストを書けるのではと思うようになりました。
同時に産業のリサーチも進めていて、豊岡はカバンですね。でもどうしてカバンなのか謎でした。調べていくと最初は柳行李、それに取っ手が付いてカバンになった。それがはじまりだったと聞きました。実際にカバンを作っている工場もいくつか見学させてもらいました。大きい工場から下請けの小さい工場。テキストの中に「雲の下請け職人」という章がありますが、美藤さんが雲の彫刻を作っている事や、カバンを作っている職人さんがいるということが何となく混ざってきて、架空の職業や職人が生まれてきたという感じです。下請け職人というのは、伝統工芸士的な人ではなくて、商品を作る段階の途中に位置している職人さんのようなイメージです。実際に行ってみた工場の雰囲気だとか、そこで働いている人の印象が残っていて、下請け職人という言葉を残したくなりました。


-川のリサーチで実際にカヌーに乗ったりされた様ですね
増田
:豊岡小学校のグラウンドの下に水路が通っているけれど、あの中はどうなっているのだろうと気になって。リサーチに来ていた全員「あそこに入ってみたい」と言い出して、吉田さんの紹介でカヌーを持っている方にお願いしたら、快く引き受けていただきました。最初に「水が淀んでいて臭いがすごいから、服に染み付いたら取れないので合羽着てください」と脅されました。「そんなに!」ってことで合羽を着込んで行ったんですが、そこまで臭いはしなかったし、割と楽しくカヌーを漕いでいました。中でライトを照らすと真下からマンホールのふたが見えました。上は芝生の校庭だから、そこを子どもたちが走っているというのは下にもぐってみると何だか不思議な感じでした。天井に黒いかたまりがうごめいていて、恐る恐る近づいてみたらコウモリの群でした。みんな「ギャー」って叫んだり。でもカヌーを展示していた校庭の上には夕方になると沢山のコウモリが飛んでいたんです。展示のとき校庭のスピーカーから流していた音声は、実際カヌーに乗ったときのもので、「コウモリコウモリ」って言っている音声の中を、本物のコウモリが飛んでいるのは何か面白かったですね。別に狙った訳ではないんですが、うまい具合にコウモリが飛んでくれていた。


-豊岡を色で例えるとするとどんな色でしょう
増田
:曇りのイメージがあるのでグレーでしょうか。でも灰色ほど暗くはなく、かといって真っ白でもはないような。作品のイメージ引っ張られているのもあるかもしれません。

-豊岡のまちの魅力はどういったところでしょう
増田
:例えば北但大震災のあとに区画整理された名残が背割線という路地で残っています。路地を歩くとそこに暮らす人の衒いのない雰囲気を肌で感じられます。復興建築もたくさん残っているけど、新しい建物も建つまちは常に代謝しています。廃川や背割線といった、まちのあちこちに過去にあったことの痕跡が残っていて、そこに今生きている人たちが住んでいるという点に魅力を感じました。過去の痕跡や名残があって現在の地点に過去が含まれ、そういうことと一緒に今のまちの状況が見える。例えば私の住んでいる京都だと、もっと観光地化されてまちが演技をしている感じがあります。豊岡はそこまでまちに演技を強要していないので、素直な変遷が見えるのだと思います。


-美藤さんにとっては豊岡のまちは何色でしょう
美藤
:はっきりした色がないですね。青からオレンジに変わってくるような、グラデーションみたいな感じというか。基本は白だと思うんですが、盆地なので空がずっと見えていて、どこにいてもその時間帯の色になるので、白いところからだんだん青になって、オレンジ色になっていく。やっぱり、空の色だと思います。まち自体の色というよりは、見ているところは空が大半なので。僕は円山大橋が好きで、橋を渡るときって空しか見えてないんです。360度周りが見えていて、一番広いので、川と空があって、川は空の色に染まっている。空の色がまちの色みたいな感じがします。


-豊岡に住んでいるからこそできることがあるのでしょうか
美藤
:豊岡を選んだのは正直実家があるからというのが大きいのですが、都会じゃないからこそできることは沢山あると思います。例えば、今回のツアーパフォーマンスでこんなに沢山の人がまちなかを歩いているのって珍しいことで、それは普段歩いている人が少ないから、すごいと思えることですよね。でも、同じことを東京でやると、人ごみの中にたまたまそのイベントがあるから紛れてしまって、風景としてはそれほど変わらないかもしれません。でも、豊岡のような静かなまちでこういう企画をやると、急に人の流れができて、まちの全容が変わって見えてきたりして、そういう面白さもあると思います。それに、大都市の人ごみの中で行おうとすると、通行止めなどいろいろな整備をしないといけないのが、豊岡では商店街の音響設備も使用させてもらえるし、裏路地も照明の仕方ひとつで全然雰囲気が変わってしまったりします。真っ白なキャンパスに絵をかくみたいに。真っ白だから、絵が書けるわけで、元々ごちゃごちゃした模様の上に絵を書いても、見えなくなってしまいます。余計にやかましくなって、何書いているか分からなくなる。豊岡は、まち自体に白い余白の部分が多いから、いろいろと書きようがあるんだと思います。
増田:大開通りの商店街のスピーカーをお借りして音響作品を流させていただいたんですが、関東から来たお客さんに東京でこんなことをやろうと思ってもまず無理だよと言われました。どうやったら許可が通るんだと驚いていました。あの距離感でずっと音が聞けるのはすごく良かったですね。
美藤:打合せをしていていろいろアイデアが出てくるんですが、ちょっとしたアイデアがちゃんと拾われて実現することができるという感覚がありました。


-増田さんが最初に美藤さんの作品を見たときの感想をうかがえますか
増田
:パッと見てかわいい感じもあるんですが、頭から雲が生えていたりとか、頭と体が違うものがくっ付ている奇妙さもあって、じっと見ているとこれは何だろうと考えてしまいます。答えがあるわけではないのに見てしまうところがあって、不思議な魅力があります。いわゆる「かわいさ」のようなものとは全然違っていて。だから作品をじっくり見る時間を取らないと、そのことをちゃんと味わえないというか、何か不思議な仕掛けがありますね。

-小説の中に登場する雲というのはどのようなものなのでしょう
増田
:物語の中の設定では、その世界ではもう自然に雲は空に上がらなくなってしまっていて、人が作らなければならなくなっています。自然の流れがどこかでうまくいかなくなったからだというぐらいのことしか書いていませんが。さらに、雲ってふわっと浮かんでいて、ずっと形が変わっているものです。形がないものを作ることって、すごく難しいと思うんですが、芸術の仕事ってある意味そういう部分があるように思います。
雲が人の手で作られている、という物語を考えたときに、自分たちがやっている作品を作ることと少し似ているかもと思いました。そもそも形がない。定形があるようでないところに手を伸ばすという感じ。特に私の場合は舞台表現が主だから、形に残らないものを作ることについて重なる部分もあります。雲職人に作られる雲も消えていくので、消えていくものをずっと懸命に作り続けるのかと。けれど確固たるわかりやすいものとか、すでに価値とされているものじゃない何か、具体的に役に立たないけれど必要なものが人にはあると思うんです。雲はそういうものの象徴でもあります。


-小説に登場する雲職人の話を読んで美藤さんが受けたインスピレーションをうかがえますか
美藤
:下請け職人というのが、すごくカッチリした仕事だったので、これはフィクションだと思った瞬間に割と気が楽になりました。常識的にいろいろなことを書いていくと、歴史の話になったりして、すごく難しい部分もあったりします。つまり、その歴史的事実や背景を知らないと作ることができないので。彫刻を含めた空間全体を空想の話になぞらえて創作するのは初めてだったので、空間全部に100ぐらいの要素を散りばめてドンと見せても、受け取る側にしてみれば、多分1か2しか汲み取れないと思いました。だったら、散りばめるだけ散りばめてみようとしました。下請け職人ということが、カバン産業のことだと汲み取ってくれる人がいるかもしれないし、川の流れと絡めて考えてくれる人もいるかもしれない。ギャラリーの壁に雲の図面とかを貼っていましたが、雲を下請けで作る場合どうするんだろうと自分で一生懸命考えながら、設計図とか納期、気象庁に電話するみたいな、そういう空想を繰り返していくと、考えながら知らず知らずにまちのことと絡めようとしていて、雲が消えていく期間とか、2~3日で消えるのか1週間で消えるのかとか。よくよく考えてみると、僕らがこの企画をやるから、人の流れがまちに生まれますよね。雲自体もこれぐらいの期間生きる雲を作って、流すから、その期間まちに流れてといったふうに、一生懸命からめながら。でも自分の自由な発想で、その空間を作っていたので、観に来た人がどこかで引っ掛かってくれればいいなという感じで作っていました。


-作品に込めた思いを聞かせてください
美藤
:一言では難しいですが、お客さんが回遊していくツアーパフォーマンスの会場の一つだったので、「ここに長くいてほしい、いっぱいきょろきょろしてほしい」と思って空間をつくりました。
増田:美藤さんのアトリエをそのまま雲職人の実際の工房みたいに見立てたいということは最初からありました。ちょうど、作品のリサーチをしている段階で引っ越しされてきてましたね。
美藤:はい。引っ越して、すぐにリサーチに来られて、ここはこういう風に使おうと思うと提案したら、じゃあ全体を雲職人の工房という設定でいろいろやりましょう、となりました。僕は彫刻を作るんですけど、映像も音響も照明も含めて、なるべくここで、いろんなことを感じ取ってほしい、なるべく長くいて、見回してほしいという感じで作りました。

-なぜ、美藤さんの作品には雲のモチーフがたくさん登場するのでしょうか
美藤
:まず、単純にモチーフとして好きということがあります。漫画だと登場人物の思ったことが吹き出しみたいに出てきますが、あれは雲の形をしています。そういう漫画的な発想と、自分がずっと見てきた豊岡の風景で空に浮かんでいる雲がすごいリンクしていて、考え事をしているとぶわーと雲が浮かんでると、それが自分の雲なのか他の誰かの雲なのか分からなくなるような、そんなイメージがあります。


-美藤さんの雲作品を見た増田さんの感想をうかがえますか
増田
:最初に大きい雲を作ってほしいというオーダーを出しました。美藤さんの作品は工房で拝見したものや、豊岡のまちの中にもいくつかありますが、あの雲ほど大きなものはありません。普段繊細な作業をされているから、大きな立体をどういうふうに作るのか全然想像できなくて。写真を送っていただいて京都で確認はしてましたが、スケール感までは分かりませんでした。8月豊岡に来て、完成した作品を目の前で見て結構びっくりしました。どう組みあがっているのか、塊になっているけど、パーツ感や継ぎ目もあるし、フラットな面に見えるところもあるし。お話しを聞くと工法にも物語の要素を汲んでくださっているところがあって、ときめきました。
美藤:いくつかのパーツをレンガみたいに組み上げていきました。かまくらと同じです。それを積んでいって、カービングして、半分ずつ作って、最後に合わせる。調べてみると、伝統的な工法としてそういうのがありました。ただ、それをもう少しラフに作りたかったんです。最初は、一つの木を彫りだそうと考えていましたが、小説に「編む」という言葉が出てきたので、編み込むとか編み目とか、編み目を木で表現するならひび割れみたいなことで、クロスポイントができたりとか、継ぎ目とか、そういった意匠を残した感じで組んだので、割とざっくりな感じでつくりました。
増田:こういうものが出来上がることを想定してお願いしているわけではないので、毎回そうなんですが、自分が書いたものをベースにいろんな作家が作品を作ってくれるので、全部が私の想像の範囲を超えているものが出てきて、それが面白いです。ちょっと違うっていうのがなくて、読んでもらって発想してもらったものはやっぱり私には作れないものなので。先ほどの工法など私にはまったく分からなかったですし。


-美藤さんにとって、初めてとなる他の作家からインスピレーションを受けて創作した感想をうかがえますか
美藤
:楽しいです。自分の普段のクリエーションを外れるのはすごく楽しい。知識もそうだし、発想もそうだし、話す中でできていくものがたくさんあるので。作っている最中は長いスパンで作りますが、その間に、その時話していたことを、超えてやろうという感情が出てきます。それによって、自分の範疇を超えるんだと思います。たまにはやらないといけないなと思います。

-小説から読者に伝えたいことはありますか
増田
:豊岡のお客さんがたくさんいらっしゃるという想定の上で書いている部分もあって、そういう方にとってはよく知っているまちのことがベースになっています。でも見慣れたものって見えなくなってしまうというか、見慣れているせいでじっくり見なくなってしまうということも結構あると思います。フィクションの話を読むことで、何か違う視点を持ってもらい、見慣れていたものをもう一度見るような時間を持ってほしい。それがすごく大切だと思っていて、あの小説を読んでみて良かったというよりは、読んでみて、自分たちの住んでいる見慣れたまちが少し違って見えるような、何か見落としていたものにふと気付けるような、そういう視点を持ってもらえることがあったら、とてもいいなと思っています。


※このインタビューは、豊岡市の広報紙に掲載するために公演翌日の8月26日(日)に実施しました。

・アーティスト・プロフィール:増田美佳
・アーティスト・プロフィール:美藤圭

 

ツアーパフォーマンス『Kawalala-rhapsody』
日時:2018年8月24日(金)25日(土)
会場:豊岡市街地各所

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