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波田野州平の映画寄席@倉吉で「海やまのあいだ」を観て

2025.7.25

KIACコミュニティプログラム2022-24で、映画作家の波田野州平さんとKIACが協働し、豊岡市竹野町のお盆の行事を撮影した「海やまのあいだ」プロジェクト。これは、プロジェクト終了後の2025年7月に、波田野さんの出身地である鳥取県倉吉市のコミュニティセンター行われた上映会に参加したKIAC地域コーディネーターによるコミュニティプログラムその後の記録です。

波田野州平 海やまのあいだ 映画寄席@倉吉
日程 2025年7月13日(日)14:00-16:00
会場 上灘コミュニティセンター(鳥取県倉吉市上灘町9-1)
2025年3月オープンしたばかりの鳥取県立美術館の正面入り口から出てすぐの、上灘コミュニティセンターの1階会議室で、波田野州平「海やまのあいだ」映画寄席が行われました。


チラシにあるように、撮影・編集の波田野さん自らによる映像への”合いの手”とともに鑑賞する上映会です。観客は、60~80代かなとお見受けする方々が多く、全部で30~40人ぐらいが集まっていました。あとで波田野さんとお話したところ、おそらくバスや車で来られる倉吉市内在住の方々がほとんどだったとのこと。

冒頭、落語の始まりのときに鳴る出囃子の効果音を波田野さんが自ら流して話し始め、KIACコミュニティプログラムの取り組みについても口頭でご紹介くださいました。
その都度次にどの映像を見るかは、KIACコミュニティプログラム2023の中間報告として行った「海やまの宴」(*1)のときのようなかんじで、波田野さんが会場の皆さんにその場で希望を聞きながら決めていくVJスタイル。

波田野さんのお子さんも動き回りながら鑑賞していて、ご家族も見守るなか、照明を全ては落とし切らず緊張感をつくらない、アットホームな上映でした。

【当日鑑賞した作品】
以下の順番で以下の作品を見ました。
タイトルをクリックすると映像を見ることができます。
(盆踊り以外のお盆の行事を中心に)

1.田久日のお盆の墓参り
2.轟の仏送り
3.小城の仏送り
4.三原のお盆の墓参り
5.蓮華寺施餓鬼供養

~休憩~

6.神原数珠繰り
7.満願寺の盆踊り
8.銅山の万灯
9.二連原の万灯

~お開き~


「竹野町」がどこにあるか冒頭に波田野さんが説明したときに、「城崎温泉の隣」という説明に「ああ!(あのあたり!)」と合点する方々が多くいらっしゃいました。おそらく「竹野」はこの日の観客のほとんどにとって行ったことのない土地のようでした。波田野さんの言葉で私自身も「ああそうか」と気が付きましたが、倉吉の方々にとっては豊岡は「山陰」というイメージではないようです。鳥取の方々にとっては、「山陰」というと何となく鳥取と島根あたりのことをいう、という感覚だそうです。一方で豊岡に住んでいる身としては、豊岡の人たちには、自分たちは「山陰」の一部という意識は割とあるのではないかと感じました。同じ「山陰」というエリアを表す言葉でも、少しずつ捉え方が違うことは、なかなかお互いに話すことはないので興味深かったです。波田野さんがそのあたりの感覚を鳥取(倉吉)の出身の人として話すと、みんな頷いていました。
ただ、実際に竹野を訪れて創作をしてみると、気候や風土が鳥取・倉吉ととても似ていると思った、という波田野さん。

映画寄席は全部で2時間でしたが、観客のみなさんは長時間にも関わらず集中して鑑賞していらっしゃるのに私は少し驚きました。観客のみなさんにとっては、「訪れたことのない知らないまち」の小さな行事の映像だからです。
終了後にお一人の方が「とっても貴重な良いものを見せていただきました。ありがとう」と、私がKIACのスタッフだとわかってわざわざ私にお声をかけてくださる方がいたり、映像に触発されたのか、終了後に倉吉の地元のお盆の行事について思い出して波田野さんに熱心に話している方や、「万灯の行事はこのあたりでは見たことがないから、驚いた」とお話してくださる方もいました。

波田野さんが上映しながら「このあたりで竹野の数珠繰りや万灯に似たような行事をご存知の方はいますか?」と質問していましたが、特にその場でお話をされる方はおらず、鳥取でもこれらは珍しいもののようでした。

神原の数珠繰りを流しているときに、私の近くにいた女性が映像の女性たちが数珠をまわしているのにあわせて「南無阿弥陀仏」と一緒に唱えていたのがその日一番印象的だった出来事でした。
蓮華寺の施餓鬼供養の映像では、臨場感のある檀家さんたちのお寺への思いの吐露が、みなさんの笑いをさそっていました。

数珠繰りの映像を観ながら数珠をまわす動きにあわせて思わず「南無阿弥陀仏」と唱えてしまうことや、行事の準備は実はみんなが久しぶりにやる仕事であるためにおぼろげな記憶を頼りに、正解がわからないまま進行したり、時には途中で意見がかみ合わなかったり、という類のことは、各地で同じように起こっていて、土地が違っても共有できる感覚なのだろうと思います。そのように連綿と受け継がれてきた一つの記録として、豊岡から離れた倉吉の地でみなさんに興味を持っていただいて鑑賞してもらったことは、とても嬉しいことでした。

竹野の山から海に流れる竹野川の流域(海と山のあいだ)に、その地形ゆえに、小さなエリアの中の集落ごとに「海やまのあいだ」の映像にみられるような本当に多様な文化と風土が残っていることは、鳥取のみなさんの上映会での反応をみて、竹野ならではのことなのではないかと改めて感じました。





*1=2023年11月18日、KIACコミュニティプログラム×中竹野ふれあい居酒屋「海やまの宴」と題して、中竹野地区コミュニティセンターが実施する「ふれあい居酒屋」との協働で実施。2023年夏に竹野各地のお盆行事を訪れて撮影した映像のラフカットを上映した。


橋本麻希
城崎国際アートセンター/地域コーディネーター。大阪府千里ニュータウン育ち。豊岡へ来て12年。神戸大学大学院国際文化学研究科芸術文化論コース修了。