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音を通して、人や場所と出会う
Passepartout Duo(パスパルトゥー・デュオ)インタビュー

2026.3.11

ピアニストのニコレッタ・ファヴァリ(イタリア)と、打楽器奏者クリストファー・サルヴィト(アメリカ/イタリア)による音楽ユニット、Passepartout Duo(パスパルトゥー・デュオ)。

自作の楽器や電子機器を用いた実験的な音楽制作を行いながら、世界各地のアーティスト・イン・レジデンスやツアーを通して活動を続けている。2026年春、城崎国際アートセンター(KIAC)に滞在し、日本の電子音楽ユニット「イノヤマランド」との協働による新しいサウンドパフォーマンスの制作に取り組んでいる。

音楽制作のプロセス、レジデンスでのリサーチ、そして音楽を通じて生まれる人とのつながりについて話を聞いた。

インタビュアー
吉田雄一郎(城崎国際アートセンター)
宮内美彩希(芸術文化観光専門職大学)
楽器、音、そしてパフォーマンス
Passepartout Duoの創作のアプローチ


――Passepartout Duoのアーティスティックな活動について教えてください。

クリストファー・サルヴィト(以下、クリス):
私たちはデュオとして活動していて、すべてを一緒に制作しています。アーティストとしての活動も基本的に二人で行っていて、個人のソロプロジェクトはありません。言ってみれば、私たちの世界はこのデュオのプロジェクトを中心に回っていると言えると思います。
活動の中心は二人で音楽を作ることですが、それに加えてサウンド・インスタレーションの制作や他のアーティストとのコラボレーションも行っています。そして私たちの活動の大きな特徴の一つが、楽器のデザインです。

私たちは音楽制作のプロセス全体にクリエイティブに関わりたいと考えています。楽器とは何かを想像し、それを実際に制作する。そして、その楽器がどんな音楽を求めているのかを考えながら作曲し、それを舞台上でどう見せるのかを考える。さらにパフォーマンスを行い、記録を残し、それをアルバムとしてどのように成立させるかを考える。そうしたすべての段階に関わることが、私たちの活動の重要な部分になっています。

また、音楽や音を「消費する」ということが、今の時代においてどんな意味を持つのかについても考え続けています。特に私たちは、楽器そのものを重要な研究対象として捉えています。楽器は文化的にもとても重要な存在で、音楽家でなくても多くの人が人生のどこかで楽器と関わった経験を持っています。
そして楽器は、とても特別な存在でもあります。多くのものがすぐに時代遅れになってしまう現代の社会の中で、楽器は完全に廃れてしまうことがほとんどありません。関係のあり方が変わるだけで、使われ続けていく。これはとてもユニークなことだと思います。
例えば今回ここで使っているラジオも、ある意味では楽器として扱っています。本来なら古い家電として見られるかもしれないラジオが、音楽的なオブジェクトとして新しい意味を持つことになります。私たちはこうした視点、つまり「楽器」という参照点を通して世界を見ることに興味があります。訪れる場所ごとに、その考え方がどのようにその土地と結びつくのかを考えながら活動しています。

左:ニコレッタ・ファヴァリ(ニコ)、右:クリストファー・サルヴィト(クリス)

ニコレッタ・ファヴァリ(以下、ニコ):
私たちの活動には多くのチャレンジがあります。その一つは、電子楽器を作るということ自体がとても技術的な行為だということです。クリスはほとんど独学で電気工学や電子回路について学びました。
私たちにとって重要なのは、そうした技術的な設計から、どのように観客とつながる音楽作品へと変換していくのかということです。設計図やソフトウェアのレベルから出発して、どこで何を簡略化し、何が本当に重要なのかを見極めながら、最終的に舞台の上で何かを語ることのできる作品へと形にしていきます。

クリス:
今回扱っているローカルラジオの考え方は、「マイクロラジオ」という芸術的な概念にも近いものです。これは遠くまで放送するのではなく、ある空間の中に小さなラジオ局を作るという発想です。そこでは放送内容だけでなく、ラジオという媒体そのものが音に影響を与えることにも注目します。
例えばマイクとスピーカーの距離によってフィードバックの音が変わるように、空間の大きさや装置の配置、ラジオの送信などさまざまな要素が音に影響します。身体や空間、装置が関係し合うことで音が生まれる。そのプロセス自体が作品の一部になるのです。

"Dispatches"



KIACでのレジデンスと新しいサウンドパフォーマンス

――今回のKIACでのレジデンスではどのような制作を行っているのでしょうか。

クリス:
今回のプロジェクトでは、小さなラジオ送信機を使ったサウンドパフォーマンスを制作しています。私たちは劇場空間の中でラジオを使い、音を送信し、それを別のラジオで受信するという仕組みを試しています。
つまり、楽器を演奏するだけではなく、「どのラジオがどの周波数を受信するのか」「それを空間のどこに置くのか」といったことも作品の重要な要素になります。音だけでなく、ラジオの配置や空間の関係も含めて作品を構成していくのです。

ニコ:
私たちは常に楽器についてのリサーチもしています。例えば今回のプロジェクトでは、イノヤマランドの山下康さんが普段使っている楽器にも着目しました。彼はカシオのキーボードやメロディカ、ハーモニカを使っています。
そこで私たちは同じようなツールを別の方法で使えないかと実験しています。たとえば、ハーモニカの内部にあるリードの部分を取り出して、それを別の方法で鳴らす実験をしています。さらにその音を増幅してラジオで送信する、といったことも試しています。
また、イノヤマランドのもう一人のメンバーの井上誠さんのキーボードの音にもとても影響を受けてきました。私たちがここで作っている楽器は彼のキーボードとは仕組みが違いますが、そこから生まれる音とどのように関係を作れるかを考えています。

クリス:
このプロジェクトは、イノヤマランドとともに、2023年に神奈川県・湯河原で行った『レディオ・ユガワラ(Radio Yugawara)』というセッションにもつながっています。その時は4人が同じ部屋で音楽を作り、お互いの楽器の音が対話するような形で録音を行いました。ただ、その時はタイトルに「Radio」とついていましたが、実際にはラジオは使っていませんでした。
今回のプロジェクトは、そのアイデアの次のステップです。実際にラジオを空間の中に置き、音のやり取りを作り出しています。


"Radio Yugawara"

ニコ:
もう一つの試みとして、サウンドウォークも行っています。城崎の町を歩きながらラジオで音を聴く体験です。
私たちは城崎についてまだあまり知らないので、特定の場所の音を紹介するというよりも、自分たちの視点でこの場所を体験するような散歩を作ろうと考えました。最初は場所のことをあまり知らないまま、まず「歩く」というアイデアから始まりました。
実際に町を歩き、音を録音し、スタジオで編集しながら「どんな散歩になるのか」を想像していきました。そして先日、実際のコースで試してみました。スタジオで想像していたものとはまた違う体験になり、とても面白かったです。

城崎でのサウンドウォークの様子 photo by igaki photo studio



観客との共有体験としての音楽

――音楽を創作しているとき、あるいは演奏しているとき、どんなことを考えていますか。

クリス:
制作の段階によって考えていることはかなり違います。楽器を作るとき、作曲するとき、録音するとき、そして演奏するとき、それぞれが別の種類の創作だと思っています。
作曲の段階では、まず楽器そのものをよく観察します。どんな音を出したがっているのか、その楽器の「声」を尊重するような感覚です。とても直感的なプロセスでもあります。
また、私たちはデュオとしての二人性についてもよく考えます。音楽の中で「二人で一つのメロディを分け合う」というような方法をよく使います。例えば、一つのメロディを交互に演奏していくような形です。

ニコ:
でも、私たちは必ずしもそのテクニック自体を舞台で見せたいわけではないんです。私たちが最終的に考えているのは、観客にどんな体験を届けたいのかということです。
私たちの目標はライブパフォーマンスです。観客と音を共有する体験を作りたい。その体験には、きっと何らかの感情的な側面もあると思います。だから、その体験にたどり着くために楽器や技術を使っている、という感じです。

クリス:
私たちはプロジェクトごとにさまざまなアイデアを探究しています。そして、それをどれだけ明確に音楽として伝えられるか、ということを考えています。

ニコ:
音楽はとても抽象的なものです。言葉で説明するのは簡単ではありません。音楽は音そのものなので、そこに言葉のような明確な意味があるわけではない。
だから、演劇のように「このコンセプトを舞台で表現する」と言うのとは少し違います。とても抽象的な領域で考えている感じですね。


"From Tbilisi"


音楽を介して生まれるつながり

――音楽を通して人とのつながりを感じるのはどんな時ですか。

クリス:
やはりライブパフォーマンスの時ですね。観客と同じ空間にいるとき、強いつながりを感じます。ただし、そのつながり方は毎回違います。観客の種類や空間、状況によって変わるんです。
もう一つは、ミュージシャン同士の出会いです。私たちは本当にたくさんのミュージシャンと出会います。そして、他の人のスタジオを訪ねることがとても好きです。その人がどのように音楽を作っているのかを見ることは、とても刺激的な体験です。
さらに、コラボレーションも大きなつながりです。今回のイノヤマランドとの協働では、私たちは同じ言語を話すわけではありません。世代も国も違います。それでも音楽を通して何かしらのつながりが生まれます。それはとても不思議で、素晴らしいことだと思います。
誰かと一緒に音楽を演奏するという体験は本当に強いものです。すべての人が一度は経験すべきものだと思うくらいです。私たちはずっとそれを続けてきましたが、今でもとても特別な体験だと感じています。

ニコ:
私はまだ、人が「あなたたちの音楽とつながった」と言ってくれると、とても驚きます。「本当に?どうやって?」って思ってしまうんです。まだ少し信じられないような感じですね。


"From Chengdu"


リスナーがつくる音楽体験

――自分たちの音楽をどんなときに聴いてほしいですか。

クリス:
いつでも、聴きたいと思ったときに聴いてほしいです。
音楽はとても抽象的なものなので、人によってまったく違う解釈が生まれます。その解釈は聴く状況や場所によっても変わります。人は、文脈を通して音楽を解釈するんですよね。
音楽は作品が完成して終わるわけではありません。アルバムをリリースした後も、その音がスピーカーから出て誰かの耳に届いたとき、そこでまた新しいプロセスが始まります。リスナーがどのように聴くかによって、音楽の体験は変わっていくのです。

ニコ:
きっと私たちが想像していない状況で聴いている人もいると思います。例えばオフィスで仕事をしながら聴いている人もいるかもしれません。
プロジェクトごとに音楽のキャラクターも違うので、合う場面も違うと思います。
例えば私たちの前のアルバムは「旅」がテーマでした。私はそのアルバムを電車の中で聴いたとき、とても合っていると感じました。すごくシンプルなことですけどね。


"Vis-à-Vis"


アーティストおすすめの作品

――本を読む時に聴くのにおすすめの作品はありますか。

クリス:
もし本を読みながら聴くなら、『Argot』というアルバムをおすすめします。とても浮遊感のある音楽で、強いリズムがないので読書のリズムを邪魔しないと思います。

(宮内)
昨日の夜、本を読みながら、そのアルバムを聴いていました!

クリス:
本当に?すごいね!

ニコ:
リズムとリズムがぶつかる感じではなく、あなたのリズムの背景になるような音楽ですね。

クリス:
歌詞のある音楽は集中を邪魔することがあります。言葉はとても強いものなので、どうしても意識を引きつけてしまいますから。


"Get Along" (Live Version) - Argot -


観客へのメッセージ

――最後に、今回のサウンドパフォーマンスを楽しみにしている観客へメッセージをお願いします。

ニコ:
少し変わったコンサート体験になると思います。4人のミュージシャンが集まり、音とラジオを使って新しいサウンドを探究するコンサートです。
アメリカ、日本、イタリアという異なる場所から来た音楽家が城崎で出会い、一緒に音を作っています。ぜひ、その少し不思議な音楽の体験を楽しみに来てください。

パスパルトゥー・デュオとイノヤマランド


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https://note.com/more_records/n/n1ea035207e0d




パスパルトゥー・デュオ× イノヤマランド
サウンドパフォーマンス『Dispatches』

https://kiac.jp/event/3677/
日時:2026年3月28日(土)19:00〜
※上演時間40分程度+トーク60分を予定
会場:城崎国際アートセンター
料金:観覧無料