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『Madama Butterfly』2021(©Philip Frowein)

ミュンヘンのシュピラート演劇祭にて
市原佐都子

2021.11.11

芸術監督・市原佐都子さんが、2021年7月に城崎国際アートセンターで滞在制作を行い、10月初めにスイス・チューリッヒのシアター・スペクタクル演劇祭で世界初演、その後同じくチューリッヒのノイマルクト劇場で上演された新作『Madama Butterfly』。
10月末には、ドイツ・ミュンヘンのシュピラート演劇祭でも上演され、市原さんもミュンヘンへ!
現在帰国後の隔離期間中の市原さんから、10月末のミュンヘン滞在レポートが届きました。
ミュンヘンに行って来ました。ドイツのミュンヘンで行われるシュピラート演劇祭に『Madama Butterfly』が招聘されたためです。『Madama Butterfly』はチューリッヒのノイマルクト劇場と共同制作し、今年の9月にチューリッヒ・シアター・スペクタクルで初演した作品。原作の『Madama Butterfly(蝶々夫人)』はプッチーニの有名なオペラですが、西洋から日本を眼差し書かれたこの作品から、私は日本から西洋を眼差した現代劇を創作しました。(城崎国際アートセンターでも書き上がったばかりの台本の本読み会を7月に行いました!)

前回ミュンヘンを訪れたのは2019年の10月末。ちょうど二年ぶりの滞在です。今回『Madama Butterfly』の上演会場でもあるレジデンツシアターが世界各国の若手劇作家をミュンヘンに滞在させ新作を執筆させるWelt/Bühneという企画の打ち合わせで呼ばれました。街を歩いていると、二年前のことが思い出されました。当時のこの時期もシュピラート演劇祭が開催されていて、何個か作品を観たり、カンマシュピーレというレジデンツシアターのすぐ近くにある劇場で岡田利規さんが創作をされていてお話しすることもできました。前回のミュンヘン滞在の経験から、『Madama Butterfly』を創ることを意識し始めたので、二年後にその場所に作品を完成させ戻ってきたことに感慨深いものがありました。また今回は前出のWelt/Bühneで書いた私の幻の戯曲『おじさんの犬祭り』もレジデンツシアターの俳優によってリーディング上演され、そちらの上演とトークにも参加しました。これはコロナ禍初期に書いたもので、ギリシャ喜劇を下敷きに、おじさんが「犬祭り」とよばれる祭りを強行しようとしている、という内容です。今読み返すと、当時の混乱状態で書いたので、大変に苦しいような恥ずかしいような作品です。立派にリーディングしていただき申し訳ない気持ちになってしまいましたが、とても楽しみました。


『おじさんの犬祭り』リーディング上演の様子(©Residenztheater)


自分の作品の上演の合間に、シュピラート演劇祭の他の演目や、カンマシュピーレでいくつか作品を観たり、シュタイフミュージアムに行ったり、と充実した滞在となりました。肝心の『Madama Butterfly』の上演も素晴らしかったです。本当に。感動しました。チューリッヒの初演から、俳優が、より喜びを持って作品と付き合っており、上演が格段に良くなっていることを実感しました。それは観ている私も心の余裕を取り戻したせいかもしれません。どんな作品でも生み出すときは苦しい時期がありますが、スイスでの創作も困難な時期がありました。来年(2022年)2月には東京と京都の公演の予定があります。無事に行われるよう祈っています。


『Madama Butterfly』2021(©Philip Frowein)


シュピラート演劇祭のパンフレットの表紙には『Madama Butterfly』の舞台写真が。出演者の竹中香子さんの姿がありました!

市原佐都子
日本/劇作家・演出家・小説家 1988年大阪府生まれ福岡県育ち。桜美林大学にて演劇を学び、2011年よりQ始動。人間の行動や身体にまつわる生理、その違和感を独自の言語センスと身体感覚で捉えた劇作、演出を行う。2011年、戯曲『虫』にて第11回AAF戯曲賞受賞。2017年『毛美子不毛話』が第61回岸田國士戯曲賞最終候補となる。2019年に初の小説集『マミトの天使』を出版。同年『バッコスの信女 ─ ホルスタインの雌』をあいちトリエンナーレにて初演。同作にて第64回岸田國士戯曲賞受賞。公益財団法人セゾン文化財団セゾン・フェロー。