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Art Direction & Design: 堤拓也

「関わりを問い直す」

2014年4月の開館から10年目となる2023年度、「アーティスト・イン・レジデンス(AIR)プログラム」は16組のアーティストらによる滞在制作を予定しています。
毎年春に募集を行う「公募プログラム」は、15か国51件の申請から12組を採択しました。「提携プログラム」としては1組、ヨコハマダンスコレクション2021:コンペティションⅠよりKIAC賞として台湾の振付家ワン・ユーグァンを受け入れます。滞在アーティストが複数年かけて地域と関わりながら展開する「コミュニティプログラム」では、2022年度から継続し、太田奈緒美、日本相撲聞芸術作曲家協議会(JACSHA)、波田野州平の3組がリサーチ、交流、クリエーションを行います。これらに加え、芸術文化観光専門職大学や9月に開催予定の豊岡演劇祭2023との事業連携を予定しています。

AIRとは、基本的に移動を前提としています。豊岡・城崎という土地に、アーティストが創作やリサーチのために訪れ、一時的に滞在し、生活をします。そこにはさまざまな新しい関係が生まれます。言い換えれば、AIRとは物事の関わりを問い直し、再検証する取り組みとも言うことが出来ます。開館以来、そして現在も、私たちの暮らす社会は変化し続け、現代の芸術表現は常にその社会を写し鏡のように反映しています。10年目を迎え、公募の選考基準として掲げる<社会への応答>と<批評的創造性>という2点を指針に、社会と表現、過去・現在・未来、個人と集団、地域とアーティストなど、さまざまな関わりを意識してプログラムを展開していきます。
■芸術監督からのメッセージ
KIACで創作される作品は、あなたにとって無関係ではないはずです。ここで創作される作品は、私達のいま生きる社会を反射して生まれるものです。社会へ問題提起をしたり、私たちが見慣れて知っている物事の見過ごされている面に焦点を当てたりします。私は高校生のときから地元の劇場で舞台芸術を観るようになりました。自分では到底想像もできない他人の想像力に触れ、また言えなかったけれど確かにあった気がする自分の内面が舞台上に表れていたとき、恐怖や喜びや様々に感情を揺さぶられ、それまでは考えもしなかったことを考えたりしました。「世界はいまここに表れているものだけではない」という感覚を劇場で得ていました。そしてまた自分の家に戻っていく、すると私の身の回りの見慣れた景色はなにか違って見える感じがしました。私に限らず、そういった体験は誰にとっても必要だと信じています。アーティストはそれぞれなにか予感のようなものを頼りにここで試行錯誤します。その過程に立ち会うことは完成作品を鑑賞するのとはまた違った豊かさがあります。今年もKIACで様々な出会いが生まれることを、ここで創作された作品が世界に発信されることを、期待しています。

市原佐都子
劇作家・演出家・小説家・城崎国際アートセンター芸術監督




【公募プログラム】
■公募について
2022年5月1日(日)~6月17日(金)の期間で募集を行い、15か国から51件の応募があり、7月に選考会を開催し、各アーティストへのヒアリングと日程調整を経て、12件のプロジェクトを採択することを決定しました。

■選考委員
「2023年度 アーティスト・イン・レジデンス プログラム」選考委員

 市原佐都子(城崎国際アートセンター芸術監督、劇作家、演出家、小説家、Q主宰)
 内野 儀(学習院女子大学 教授、パフォーマンス研究)
 木ノ下智恵子(アートプロデューサー、大阪大学21世紀懐徳堂 准教授)
 藤田一樹(ダンサー、現代ダンス研究)
 志賀玲子(城崎国際アートセンター 館長)
 吉田雄一郎(城崎国際アートセンター プログラムディレクター)
 橋本麻希(城崎国際アートセンター 地域連携ディレクター)

■選考基準
【社会への応答】=私たちが生きる現在の社会や環境に対して、芸術活動を通して何らかの応答がなされているか
【批評的創造性】=既存の価値や常識を批評的にとらえ、芸術面においてそれらを更新する可能性を有しているか

■選考会とスケジュール調整
選考会では、上記の選考基準にもとづき、各選考委員が基準を満たす、もしくは議論すべきと考えるアーティスト、プロジェクトを事前に選出し、その評価をもとに全員で議論を重ねました。その中で、まず全体から高い評価を得たアーティスト、プロジェクトを採択候補者として選出しました。次に、ラインナップ全体のバランスを考慮し、演劇・ダンス・その他の分野ごとに議論を重ね、分野、ジェンダー、地域などにも配慮し、それぞれの分野から数組ずつの採択候補者を選出し、最終的に計12組の採択候補者を決定しました。
選考会終了後、コミュニティプログラム、提携プログラムと、公募アーティストの希望する滞在日程を調整するという、実務的なすり合わせを行い、最終的に12組のアーティスト、プロジェクトを「公募プログラム」として採択することを決定しました。

■採択プロジェクトについて
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コーンカーン・ルンサワーン
Dance offering

伝統と現代をつなぐタイの新世代ダンスアーティストが、タイ伝統舞踊の儀式性をベースに、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)といったデジタルテクノロジーやアニメーションとの協働で生み出すハイブリッド・パフォーマンス。観客の願望や希望を写す、現代における祈りと交渉の場を創出する。

y/n(橋本清、山﨑健太)+寺田健人+和田華子
ジェンダーとセクシュアリティについて考える3組のアーティストによるクリエーション・キャンプ

ジェンダーやセクシュアリティに関して、ドキュメンタリー的な手法で作品を発表してきた3組のアーティストによる創作合宿。「教育」「対話」などをテーマにしたそれぞれの新作を、相互に意見交換を行い創作することで、より多角的な考察を試みる。

川口隆夫
バラ色ダンスプロジェクト

舞踏の創始者・土方巽の初期代表作『バラ色ダンス』(1965年)をもとに、ダンス界の異才・川口隆夫と川村美紀子が、カオティックな美意識から舞踏を再検証する長期プロジェクトの2年目。80代の舞踏家や20代の若手ダンサーらとともに、突き抜けるような明るさで現代社会の閉塞感に揺さぶりをかける。

フレデリック・フェリシアーノ
Birdy

フランス・ボルドーを拠点に現代人形劇を創作するフレデリック・フェリシアーノによる、飛行機を盗んだ実在する少年犯罪者をモデルにした新作のクリエーション。少年は人気ヒーローになれるのか? 日本のマンガから着想を得て描かれる、クレイジーで繊細な、ティーンのための人形劇。

南野詩恵/お寿司
『結婚式』 ご出席 ・ ご欠席 ・ ワークインプログレス

衣装作家の南野詩恵が作・演出・衣装を手掛ける舞台芸術団体「お寿司」が、 戯曲『ロミオとジュリエット』に現代日本の結婚式の形式を重ねて生み出す観客参加型の舞台。「なぜあなたはロミオなの?名前と家を捨ててくれたら、私も捨てます」と、13歳の少女が仕掛ける交渉の意味とは…?

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク
『言葉とシェイクスピアの鳥』クリエーション

「1年後にKIACに集まって、クリエーションを開始します」
決められた約束のもと、1年間を過ごしたチームメンバーたちがそれぞれの言葉、身体、時間を携えて城崎に集まる。舞台芸術の新しい形を探究し続けるスペースノットブランクが、集団と言葉、その関係性をテーマにクリエーションを開始する。

魚森理恵/kehaiworks
光を熱して暗闇を温める/暗闇再考プロジェクト

劇場空間の黒い闇、暗室の赤い闇、吹雪の白い闇。
光と影をテーマに分野を横断した活動を行う照明デザイナーの魚森理恵が城崎の温泉街を舞台に、都市生活で避けられがちな「暗闇」にまつわる調査・実践・研究を通して、そのポジティブな運用の形を探る。

屋根裏ハイツ
8F演劇公演『テーブルマナー(仮)』クリエーション

中村大地が演出を務める劇団・屋根裏ハイツによる2年ぶりとなる新作長編のクリエーション。『パラダイス』(2021)に引き続き「理想の共同体とは何か?」というテーマを掘り下げ、とあるシェアハウスを舞台に現代社会における地縁・血縁に限らない共同体とその行く末を見つめる。

山口惠子/BRDG+イアン・セガラ/PETA
新作クリエーション

京都を拠点とする演劇ユニットBRDGとマニラを拠点とする劇団PETA(フィリピン教育演劇協会)によるコラボレーション。京都市内に実在するコミュニティカフェをモデルに、日本とフィリピン両国でのリサーチを通して、国をまたいで移動する人々とカフェが創り出す共同体の姿を描く。

Art Translators Collective
アート・トランスレーション・パーティ:ゲーム制作プロジェクト

アート専門の通訳・翻訳者チーム、アート・トランスレーターズ・コレクティブが芸術における翻訳の可能性と創造性を発信・共有するプロジェクト。翻訳のプロセスを体感できるゲーム開発に加え、座談会やワークショップなどを複合的に展開し、その価値と意義をこれからの創造環境と社会に対して提示する。

森下真樹+上村なおか
駈ける女、探す女。~『駈ける女』を通して作品を残すことを考え、探す~(仮)

日本のコンテンポラリーダンス界のゴッドマザーと呼ばれた故・黒沢美香が、振付家・ダンサーとして活躍する森下真樹と上村なおかに振付した『駈ける女』(2013年)。初演から10年を迎えるいま、再び身体に蘇らせることを通して、ダンス作品を後世に残すことについて探究する。

岩井秀人/ハイバイ
新作クリエーション

ひきこもりや父親からのDVといった、自らが経験した出来事を題材に創作を続けてきた岩井秀人が、そのスタイルを発展させて挑む新作のクリエーション。現代に生きる若者の抱える苦悩を、実力派俳優たちによるモノローグを中心とした語りによって、軽やかに立ち上げる。
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以上、12組のアーティスト、プロジェクトを「公募プログラム」として採択しました。


【公募以外のプログラム】
公募プログラム以外では、以下のプログラムの実施を予定しています。
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■コミュニティプログラム(主催プログラム)
2022年度からアーティストが複数年かけて地域と関わりながらリサーチ、交流、クリエーションを展開しているプログラム
太田奈緖美
タケノ時空間散歩『この家で』

美術作家の太田奈緖美が、かつて竹野町で発行されていた文集『万年青(おもと)』を手がかりに地域を訪ね歩き、人々の言葉や記憶、風景を拾い集めて物語を紡ぐプロジェクト。2022年度に試作した物語から、語りによるパフォーマンスを創作。2024年度の完成を目指す。

波田野州平
海やまのあいだ

映画作家の波田野州平が、豊かな自然と地域文化を持つ山陰海岸ジオパーク周辺を舞台に、地域の人々と交流を重ねながら映画を制作するプロジェクト。フィールドワークを通して、折り重なる土地の時間と、そこに漂うものたちの語る声に耳を傾ける。

日本相撲聞芸術作曲家協議会(JACSHA)
おんがくワークショップ+竹野相撲甚句ファンファーレゲエ2023コンサート(仮)

相撲に耳を傾けること(=相撲聞)によって、新たな芸術を創造する作曲家集団、日本相撲聞芸術作曲家協議会が、竹野町に伝わる「竹野相撲甚句」にレゲエ要素を加えて作曲した『竹野相撲甚句ファンファーレゲエ』(2018年)を、こどもたちとのワークショップを経て再創作し、コンサートで発表する。

■提携プログラム
国内外の芸術団体等との連携によって実施するプログラム
ワン・ユーグァン+ダナン・パムンカス
A Quest for Relationship: Island of __

ヨコハマダンスコレクション2021-DEC:コンペティションⅠよりKIAC賞を贈賞した台湾の振付家、ワン・ユーグァンがインドネシアのダンスアーティスト、ダナン・パムンカスと2022年から取り組むコラボレーション。「わたしとは誰なのか?」という問いのもと、 異文化間の対話と交感を通して、互いの身体に潜む文化の姿を探求するダンスパフォーマンス。

■芸術監督・市原佐都子の活動
・芸術監督の市原佐都子とKIACメンバーをホストに毎回多彩なゲスト迎えて、さまざまなテーマで対話の場を開いていくシリーズ企画「佐都子の部屋」を不定期開催

■その他のプログラム
・芸術文化観光専門職大学の劇場プロデュース実習の受け入れ
・豊岡市近郊で開催される舞台芸術祭「豊岡演劇祭2023」のプログラム
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以上16組のアーティスト、プロジェクトによるレジデンスプログラムと、それらに関連するプログラムを実施します。
開館から10年目となる2023年度も城崎国際アートセンターの活動にご注目いただければ幸いです。


2023年3月16日
城崎国際アートセンター